新くんはファーストキスを奪いたい
自宅で夕飯とお風呂を済ませた鞠は、濡れた髪をタオルで乾かしながら自分の部屋に戻ってきた。
現在は夜の九時を過ぎたところ。
見たいテレビや動画、はたまたストレッチなんかしてリラックスしている時間帯かな?
なんて今時間の新の行動を想像しながらスマホを手に取った鞠は、トークルームを開いて用件を打ち込む。
「こんばんは。月曜日の放課後、初回の委員会あります。っと」
最低限の文章を作成して送信ボタンを押し、机の上にスマホを置いた。
了解の返事があれば安心だが、なくても既読さえつけば差し支えがない内容だ。
そう思った鞠は、ドライヤーで髪を乾かすため、再度部屋を出て行こうとした時。
ブブっとスマホが震えて、メッセージの受信を知らせてきた。
「あ、新くんだ……」
予想外の早い返信に驚いた鞠は、部屋に留まりメッセージを確認する。
するとそこには、鞠が送った用件には一切触れていない文章があった。
【帰り際、恭平と何話してたの?】
「恭平くんと……?」
新の言っている帰り際の記憶が正しければ、帰り支度を急いでいた恭平に声をかけ。
バイト勤務の日に合わせてお店に行きたい話をしていたことを思い出す鞠。
あの時一瞬目が合ったように思えた新が不機嫌そうだったのは、それが原因だったのではと思い。
決して悪口なんかじゃなく、何気ない普通の会話内容だったことを伝えた。
【今度お店行くって話してただけだよ〜】
嘘ではない、が恭平に「新と二人でおいで」と言われたことは誤解を生むから省いて説明した。
すると直ぐに既読されたものの、返信がない。
うんともすんとも言わない画面に、新とのメッセージはこれにて終了か?と感じた鞠が、
ようやく部屋を出ていき洗面所に向かった。
しばらくして、机上のスマホがメッセージの受信を知らせてくれる。
しかし鞠はドライヤーで髪を乾かしている最中であり、それを確認するのは少し時間が経ってからとなるが。
【あまり恭平と仲良くしないで、妬けるから】
確認したところで、このメッセージに対する返信ができなくなったのは鞠の方だった。