新くんはファーストキスを奪いたい



 そんな鞠の様子を察し、頭の後ろで手を組んだ恭平が不満そうに口を尖らせた。



「なんか一人で悩んでない?」
「え! いや?」
「嘘下手だな鞠ちゃん、まあ言いたくないならいいけど」
「……ごめん」



 楽観的なタイプかと思いきや、意外と鋭い洞察力を持った恭平にドキリと緊張が走り、咄嗟に謝ってしまった。
 これでは悩みがあると言っているようなものなのに、それ以上詮索してこない恭平に優しさも感じる。

 すると突然、愚痴のように不満を話し始めた恭平に、鞠は耳を疑った。



「あーあ、新には“鞠ちゃんに馴れ馴れしくすんな”って怒られちゃうし」
「え⁉︎ 何それ(恭平くんにも言ったの?)」
「鞠ちゃんが他の男と仲良くすんの嫌なんだってさー」
「……ん?」
「この俺でさえもムカつくみたい、心狭いよなアイツ」



 それ、私の前で話していいこと?
 そんな不安さえ過った鞠だが、悪びれもしない恭平は舌をべっと出して「ま、聞く気ねーけど」と呟くと。
 まるで新を妬かせようと企む腹黒い表情をして、意地悪そうに微笑んだ。


 そのタイミングで、担任の先生が教室にやってきて帰りのSHRが始まる。
 前を向いて姿勢を正した鞠は、頭の中で様々な情報が混雑していた。



(ま、ますますわからなくなってきた……)



 新の思惑も気持ちも、鞠には理解できなくて。
 まさかこんな平凡な(なり)をした自分に、俳優のようなイケメンの新が好意を向けるわけはなく。
 恭平の言っていた新の言葉は、誤解が生じたことによる恭平が捉えた言葉にすり替わったのだと無理矢理理解した。

 そうでもしないと……。



(これから委員会なのに、顔が熱いよ)



 担任の先生の話を充分聞くことができずにいた鞠は。
 新のことを意識すると頬に熱を帯びてしまうので、窓から見える空に浮かんだ雲ばかり見て気持ちを落ち着かせた。


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