新くんはファーストキスを奪いたい
委員会専用の教室に集められた各学年各組の美化委員は隣同士に着席。
それに倣って鞠と新も席に座るが、やはり会話はない。
代わりに他の委員の視線が、イケメンオーラを放つ新に集中していて。
鞠は居た堪れない気持ちを抱いていた。
「では委員長は三年の佐渡さんで決定です」
「よろしくお願いします」
進行をしていた先生と入れ替わりで教壇に立った佐渡は、メガネをキラッと輝かせて委員の顔を一通り見回した。
そして各学年の取りまとめ役、つまりリーダーを勝手に名指ししてきたのだ。
「まず一年生からは三石さん!」
「えッ!」
「今日の委員会の件もきちんと全員に連絡してくれたから信頼できるわ」
「は、はあ……」
どうやら鞠に拒否権はないらしく、佐渡委員長の独断で学年リーダーに任命された。
その後は主な活動内容とそのスケジュールを伝えられ、三十分ほどの会議はこれにて終了。
わらわらと教室を出ていく委員に続いて、新が席を立ち廊下に出た時。
ようやく鞠が背後から呼び止めた。
「あ、新くん」
「……何?」
「この前のメッセージ、返信できなくてごめん。怒ってるよね……」
久々に新の声を聞いた気がして、ほっとするのも束の間。
その返答次第では今後の関係に大きく影響してくる。
不安そうに視線を落とす鞠に、表情が変わらないポーカーフェイスの新は。
「うん、怒ってる」
「(やっぱり)あの、無視したつもりは」
「自分に対して」
「え? 自分?」
思わず顔を上げた鞠は、そこでようやく新の目をしっかりと見ることができた。
返信がなかったことに対してでも、それについて言及しない鞠に対してでもなく。
自分に対して怒っているとは一体?と鞠は首を傾げる。