新くんはファーストキスを奪いたい
ガラッ
少し年季の入った屋外倉庫のドアをスライドさせて、内部を覗いた新。
四畳半くらいの面積と、ニメートル半はありそうな倉庫内の天井。
壁沿いには棚があり、体育で使う備品の数々が奥への道を塞いでいる。
しかし日の光が当たらず視界があまり良くないため、細かい物が良く見えなかった。
「空気悪。奥に進めないかも」
「ずっと閉め切ってたのかな? 新くん無理しないで……」
「天井角に蜘蛛の巣もあるし危ないから鞠はここにいて」
「いやいや、ここは小回り利きそうな私が」
先陣切って倉庫の中に足を踏み入れた頼もしい新に続いて、鞠も入ろうとしたその時。
何かが高速で走り抜け外に飛び出ていった感覚が足元に伝わ李、思わず悲鳴を上げた。
「きゃあああなにいい⁉︎」
「鞠⁉︎」
すると咄嗟に目の前の新の背中に腕を伸ばし、そのジャージを鷲掴みすると震えながら耐える鞠。
突然の接触に新自身も驚いてしまい、薄暗い中で身動きが取れなくなった。
「……ちょ、鞠どうした?」
「むりむりむりなになに何か足元で走った」
「あー、ネズミかな?」
「ひいやあああむりいい!」
具体的な単語を聞かされ、よりパニックに陥った鞠が新の背中に両腕を回してがっちりとホールド体勢となった。
その衝撃でグンと前方に押し出された時、棚に手をついた新の指先が目的のものに触れる。
ツルツルとしたビニール素材の束。
手探りながらにゴミ袋を引き寄せた新は、鞠にそのことを知らせようとしたが。
もうしばらく体に纏わりつく鞠の温もりを感じていたくて、あえて違う話を始めた。