新くんはファーストキスを奪いたい
「まだ怖い?」
「うううやだ怖い動けない!」
「鞠が離してくれないと俺も動けないよ」
「待って待って、ちょっとだけ待って……!」
感情が乱れていつもより大きい声を出し、瞼をぎゅっと固く閉じて怯える鞠。
そんな姿も新鮮で可愛くて、つい苛めたくなってしまう気持ちが芽生えた。
そうして、ゆっくりと体を半転させることに成功した新の片腕が、鞠の震える肩を抱きしめて宥める。
「わかった、落ち着くまでずっとこうしてるから」
「うう〜ネズミいや……」
「うんうん、いやだね、大丈夫……(鞠震えてる、可愛い)」
相手の顔が良く見えない薄暗い屋外倉庫の中で、ほぼ抱き合った状態のまま時間だけが過ぎた。
ネズミパニックから徐々に落ち着きを取り戻してきた鞠は、肩に置かれた異性の手のひらを感じて瞼をゆっくり開ける。
次に今の状況を改めて理解すると、再び別物のパニックを起こした。
「わああごめん! も、もう大丈夫!」
あの新と抱き合っている現実に心臓が口から飛び出そうになった鞠が、体を引き剥がそうと腕を伸ばす。
しかしどうしてか、肩に回されていた新の手はそれを許さなくて。
離れかけた鞠の体を、今度は正面から両腕で抱きしめ直した。
「あ、新く……⁉︎」
「待って、も少し」
「っ……」
その声色は優しいけれど、どこか儚げで。
新の腕の中にすっぽりと収まり、胸に耳を当てた体勢のまま固まる鞠。
ドクンドクン、と自分のものではない生命の音が耳奥から脳に伝達されると。
自然と鞠の体温を上昇させていく。
「……もしかして、新くんも怖かったの?」
「……」
鞠の問いかけに対して無言の新は、自分の今の行動は鞠にとってその程度の理由にしかならないのかと落胆した。