新くんはファーストキスを奪いたい



 ネズミを恐れて、異性の背中にしがみつける鞠のことだから、仕方ないのかもしれないけれど。

 新のこの行為は閉所恐怖症とか暗所恐怖症とか、鞠のようなネズミが怖いとか、そういう意味ではない。


 募る想いを少しでも満たしたいという正直な欲求の表れであり、鞠に少しでも伝わって欲しいという願いも込められていた。



「鞠、俺のこと見て」
「え?」



 怖がっているように見える?なんて冗談ぽく返事が返ってくる想像をして、何の疑いも無く鞠が顔を上げる。
 すると、新の表情を確認するどころか、鞠の視界には薄暗い中でもわかるキメ細かな頬肌が映った。

 怖がっているのか平気なのか。
 その表情が確認できないくらい間近に顔を接近させていた新が、不意に唇を寄せてきたように感じた時。



「三石さーーん?」
「⁉︎」



 少し離れたところから聞こえてきた、佐渡委員長の鞠を呼ぶ声。

 ドキー!と体を跳ねさせて、容赦なく新から体を離した鞠は、勢い余って屋外倉庫を背中から飛び出し。
 そのままバランスを崩して、佐渡委員長の目の前で尻餅をついた。

 それを目撃して駆け寄った佐渡委員長は素早く屈んで、鞠を介抱するのかと思いきや。



「大丈夫? どんな出方してるのよ」
「イタタ、すみません……」
「ゴミ袋あった?」



 鞠の体の心配より、ゴミ袋発見の有無を気にかける。

 それについてはネズミパニックにより、まだ発見に至っていないことを詫びようとした鞠だったが。
 倉庫からそっと出てきた新の右手には、しっかりと45L半透明のゴミ袋束があった。


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