新くんはファーストキスを奪いたい
「これでいいですか?」
「OK! ありがとう一条くん!」
ゴミ袋を受け取ってご満悦な佐渡委員長の頭上で、パチっと目が合った鞠と新はどこかよそよそしく視線を逸らす。
(危ない、また新くんの顔面に近付いてしまった……!)
(やば、まだ好きになってもらってないのに突発的にキスしかけた)
突然の事故だと思い込んでいる鞠と、危うく暴走して鞠の願望を壊すところだった新。
互いに反省点を振り返って、熱を帯びた頬を隠していると。
佐渡委員長が倉庫扉の近くに転がっていた真新しいテニスボールを発見する。
「あれ? 倉庫から転がって出たのかな?」
「は……まさか」
鞠の足元で、何かが高速で走り抜け外に出ていったもの。
てっきりネズミだと思っていたそれは、もしやテニスボールだった?
そんな疑念を抱いていると、その事実を理解して先に吹き出したのは新の方。
「はは、テニスボールにビビったんだ鞠は」
「な! だって新くんがネズミって言うから!」
「ああそっか、無駄に怖がらせたの俺か、ごめっふは」
「笑いながら謝られても……」
こんなに弾けた笑顔の新も、普段よりハリのある声の新も初めて感じた。
一瞬、胸の奥できゅっと摘まれたような音を鳴らした鞠だったが、
倉庫内のあの出来事の後にもかかわらず、気まずい空気にならなかったことには安堵した。
(良かった、新くんあまり意識してないみたい)
「さて戻るよ一年のお二人! 今回の雑草はゴミ袋何個分だろうねー?」
「え、そんなに集まるんですか?」
「意外と嵩ばるのよ草って、頑張ってね〜」
「は、はい」
佐渡委員長の言葉に気を引き締めて返事をする鞠を見て、自然と新も微笑みが溢れる。
そうして三人で作業場である花壇へと戻っていくも、佐渡委員長だけは。
(彼、顔に出やすいわね……お邪魔しちゃったわ)
実は見えてしまった新の笑顔と、その眼差しが鞠に注がれていたことにも気づいてしまい。
心配してこの場に来たことを、少しだけ申し訳なく思っていた。