新くんはファーストキスを奪いたい



  * * *


 入学式を終えた翌日。
 新クラスとなった教室に緊張しながら足を踏み入れる鞠。
 既に半分ほどの生徒が登校しており、雑談している者もいれば一人黙々と本を読んだりスマホを操作する者もいた。



(HR始まったらスマホは使っちゃダメなんだっけ……)



 中学では持ち込み不可だったスマホが、今はブレザーのポケットの中にしっかり収まっている。
 新しい校則にも慣れていかなちゃ!と思いながら、鞠が黒板に目を向けると。
 出席番号順の座席表が貼り出されていた。



(やった窓側! けど一番前かぁ〜)



 最初のうちは大体こんなもんだと、三石に生まれた宿命と思って机に鞄を置いた。

 そしてちらりと教室全体を眺めてみると、知り合いが全然いない事にもため息を漏らす。

 幼馴染の北斗の他にも同じ中学出身の生徒はいたはず。
 なのに見事に配分されてしまって、入学早々話せる人がクラスの中にいない鞠は。



(友達……できるかな)



 北斗への告白だけに留まらず、そんな悩みも浮上してしまう。

 椅子に腰を下ろし、友達はどうやってできるんだっけ?と不安に駆られた表情をしたその時。



 ガラッ
(へ……?)



 一人の男子生徒が一組のドアを開け、悠々と教室に入ってきたのが見えた。

 切れ長で黒目がくっきりとした瞳に、鼻筋の通った繊細かつ綺麗な顔立ち。
 艶やかな黒髪マッシュが微かにさらりと揺れ、一瞬にして視線を奪われるクラスの女子達。

 もちろん、鞠もその内の一人となってしまったが、ハッと我に返って前を向き直す。

 自分は北斗が好きなのに、初めて見る究極のイケメンについ目を奪われてしまったと反省した。
 しかし――。



(いや、あんな芸能人みたいなオーラを放つイケメンがいたら、仕方ないよね……)



 不可抗力であることを自分の中で強調しながらも、強い印象を受けた彼を控えめに目で追ってしまう。
 すると、黒板に貼り出されていた座席表を確認した“俳優のようなイケメン”は、
 鞠とは真逆の廊下側の一番前席に鞄を置いた。


< 6 / 138 >

この作品をシェア

pagetop