新くんはファーストキスを奪いたい
「なあ鞠、いつまで俺のこと無視すんの」
「……どうせ私は連休も予定のない女ですよ」
「うわ根に持ってる。そんな深い意味はないって〜」
悪気はなくても、無神経な事を口走るのは相変わらずの北斗。
すると、二人の様子を見ていた唯子が躊躇なく口を開いた。
「でも鞠ちゃんが傷ついてるんだから、北斗はちゃんと謝った方がいいよ」
「……わかったよ、鞠ごめん。もう言わないように気をつけるから機嫌直して」
その意外な唯子の対応に、鞠がハッと顔を上げた時。
他の部員が北斗を呼びつけたので、再び鞠と唯子の二人になった。
「唯子ちゃん、気遣ってくれてありがと」
「ん?」
「さっき、北斗に言ってくれたでしょ」
彼女である唯子の前でこんな事、不快に思わせたかもしれないと鞠は心配した。
だけど、今の唯子は不機嫌そうな様子もなく、むしろ鞠に温かい視線を向けてくる。
「北斗ってたまに無自覚に無神経な発言するから、怒る鞠ちゃんの気持ちわかるよ」
「そ、そうなの! 唯子ちゃんにも言うの?」
「言うよ〜! そしていつも私に注意されてる、コラーって」
「ふふ、そうだったんだ」
北斗を通じて、唯子と少し分かち合えた気がした鞠。
かつて好きだった人の彼女で、できれば距離を置きたいと思っていた人なのに。
今こうやって笑いながらボールを磨いているのだから、本当に不思議な光景の中にいる。
きっと、真っ直ぐで芯の強い唯子だからこそ北斗が惹かれたんだと思うと、納得もできたし。
鞠にとって大切な幼馴染の北斗のことを、大切に想ってくれている唯子の気持ちも充分伝わってきた。
「鞠ちゃん、私は北斗とは長く仲良しでいたいから不満の蓄積を避けたいんだ」
「不満の蓄積?」
「友人だろうと恋人だろうと、不満を貯めていたらいつか爆発して修復不可になるから」
どこか寂しげに語る唯子を、鞠は心配そうに見つめた。
真っ直ぐで芯の強い人だと思っていたけれど、それはきっと後悔の経験が今の唯子にさせたんだ。
そんなふうに感じて、咄嗟に励ますような言葉をかけた。