新くんはファーストキスを奪いたい



 ゴミ拾い活動を終えた委員たちが再び生徒玄関に集合して、集めたゴミを回収する。
 そして佐渡委員長が真面目に作業したみんなを労い、その場での解散となった。


 放課後の静かな校舎内で、自分の足音がやけに響く。
 そんなことを感じながら、鞄を取りに自分のクラスに向かう新の背中を見つめたまま、鞠はその後を気まずそうに歩いた。



(どうしよう、もう一度謝ったほうがいいのかな……)



 だけど、二回目も無視されてしまうと流石に心が折れそうで、その不安から声をかけられなかった。

 先に一組の教室内に入っていった新に続いて、鞠が教室に足を踏み入れる。
 すると、何故かすぐそこで立ち止まっていた新の背中に、危うく衝突するところだった。



「わ、びっくり……!」
「……さっき、ごめん」
「え? なんで新くんが謝るの?」
「聞きたくない話が耳に入ったことによる、八つ当たりだったから」



 傾きかけた夕日の色が、微かに教室内を照らす。

 表情こそ見えないが、少し後悔の念を纏う新の背中を鞠は感じていて。
 どうやら雑談が不快にさせたわけではなく、その内容が不快だったらしいと理解した。


 しかし、話の内容を思い出そうとしてみたが、新にべったり寄り添う紗耶の姿が印象的で記憶があやふや。
 このままでは再発防止ができないと焦りながらも、もう一度謝るチャンスが巡ってきたと鞠は思った。


< 67 / 138 >

この作品をシェア

pagetop