新くんはファーストキスを奪いたい
「でも活動中に関係のない話は良くないと私も思うから、ごめんなさい」
「いや、別にそれは」
「ハッキリ注意してくれてありがとう、新くん」
原因不明のまま有耶無耶にせずに済んだことと、気まずい空気の中を新の方から歩み寄ってきてくれた気がして嬉しかった。
それと同時に分かり合えたことで、鞠はこの先、より深い信頼関係を新と築けそうな予感もした。
だから感謝の言葉が自然と出た時、背を向けていた新がゆっくりと振り返る。
これで仲直り、なんて思っていた鞠の思いとは裏腹で。
どこか切なげな瞳を浮かべる新に、解消されかけた不安が僅かに残った。
「……じゃあ、もう一つハッキリ言っても良い?」
「え、何こわい。悪いこと?」
「違うと思う、多分」
「多分? 多分て、やっぱこわいよ」
「こればかりは鞠次第だからわかんない」
「わ、私?」
一体、新は何をハッキリ言おうとしているのか、鞠は検討もつかなくて。
耳を塞ぐべきかどうか悩んでいると――。
「俺はいるよ、クラスで良いなって思ってる女子」
「……え? それって」
「鞠だよ」
馴染みのある一組の教室が、突然異空間に感じてしまった。
それほどまでに鞠は、聞こえてきた新の台詞に理解が追いつかなくて。
この日、どうやって新と別れて教室を出たのか記憶が曖昧となった。