新くんはファーストキスを奪いたい
07. 結局どういうこと?
その翌日の登校時間。あわや遅刻というギリギリの時間に、教室後ろのドアから滑り込みセーフを決めた鞠。
寝坊をしたのか、いつもより髪は乱れ目の下には隈が薄らと確認でき、余裕の無さが窺える。
「おはよー鞠ちゃん、危なかったね」
「はぁ、恭平く、おはよ……電車降りて、全力で走った……」
「マジで? 必死じゃんウケる」
呼吸を整えながら席に着いた鞠を、後ろの席の恭平がそのファイトを讃えながら笑っていた。
すると鞠の後ろ髪の絡まりに気付いて、不意に手を伸ばす。
「鞠ちゃん、髪絡まってる」
「え⁉︎ どこどこ?」
「左側の……!」
そう言いかけた恭平が突然、何か殺気のようなものを感じて鞠の髪に触れるまであと少しという距離で手を止める。
ゆっくり、恐る恐るそちらに視線を向けると、相変わらず数人の男女に囲まれている新が自席から恭平をじっと睨んでいたのだ。
「ヒィ!」
「え、恭平くん?」
「触ってない触ってない!」
「わ、わかってるよ……」
絡まった部分を手探りで確認し手櫛で整える鞠は、冷や汗を滲ませる恭平を不審に思いながら口を尖らせる。
と同時に朝のSHRを知らせるチャイムが鳴り、程なくして担任の兼松先生が教室にやってきた。
毎日繰り返される光景。変わらない教室の雰囲気。
寝不足により気が緩むと出てきてしまいそうな欠伸を、鞠は必死に我慢して。
ふと涙目を窓の外に向け、昨日の放課後この教室で交わした新との会話を思い出した。