新くんはファーストキスを奪いたい
その場所に座ったのなら、彼の名前を確認するのは簡単だ。
鞠が次に視線を向けたのは、黒板に貼られた出席番号順の座席表。
(……一条、新くんっていうんだ)
すると間もなく、校内にチャイムが鳴り響いてスーツを着た男の先生が教室にやってきた。
四十代くらいでハキハキしていそうな印象の彼は、
入学式で発表があった通り、このクラスの担任となる兼松先生だ。
「席つけー」という先生の一声で、賑わっていた教室内は一気に緊張が走る。
そうして初めてのHRが始まった。
軽く挨拶をしたのち校内の説明をする先生の話を聞きつつ、窓側の一番前に座る鞠は、ふと横一列の一番端。
つまり、廊下側の一番前に座るイケメンに一瞬視線を向ける。
“あ”から始まる苗字が一組にいなかったことで、“い”から始まる苗字の新が一番前の席となった。
きっとこの後開催される自己紹介タイムも、彼が一番最初になるのかな、と予想した鞠。
『じゃあ自己紹介。一条から』
(やっぱり!)
先生に名指しされて、案の定自己紹介のトップバッターとなった新。
しかし、嫌な顔一つせずに、堂々とした態度で立ち上がった彼は。
教室内を見渡せるように体を半転させ、その整った顔をクラスメイトに向けた。
『一条新です。よろしくお願いします』
その目を引く外見のみならず、声までもが優しく澄み切っていて。
今の自己紹介で何人の女子生徒のハートを掴んだのだろうと、鞠は冷静に考えていた。
(全てにおいて、完璧そうな人……)
それが何処か近寄り難い印象でもあった鞠は、つい新と北斗を比べてしまう。
きっと、ほとんどの女子は新のようなハイスペックな男子に惹かれるものだと思っていた。
一方の北斗は、鈍感で無神経でバスケばかだけど、優しくて頼りになって親しみやすい。
欠点があっても、好きな気持ちで霞むのが恋なんだ。
身をもって理解していた鞠は、この日北斗と一緒に帰ることが楽しみで。
早く帰りの時間にならないかと待ち遠しい気持ちを抱く。
しかし、この時の鞠は想像もしていなかった。
この俳優のようなイケメンと称した彼が、まさか高校生活を送る自分にとって。
最も重要な存在になるということを――。