新くんはファーストキスを奪いたい



 * * *



「鞠だよ」
「…………ん?」
「だから、俺は鞠が……」



 重要な部分をこれから言おうとしたところで、口を(つぐ)んでしまった新。

 このまま最後まで伝えるべきか、それともまだ温めておくべきか迷っていて。
 しかしこのままだと何の意識もされない焦りもあり、鞠の様子を窺った。

 すると、肝心の鞠はというと――。



「……あ、そっかー、うんうんありがとね」
「……ん?」
「私も新くんと仲“良いな”って思ってるよ」
「は、いや鞠(違うんだけど)」
「じゃ私用事あるから帰るね、委員会お疲れ様!」



 妙に流暢に話したあと、新をその場に残して逃げるように教室を飛び出した。

 とりあえず帰宅するまではいつも通りを装うことに努めていて、次は間違えないように電車に乗り込み、無事自宅に到着した。

 途端、その玄関先で勢いよくしゃがみ込み、地面に向かって叫んだ。



「新くん! それは誤解しちゃうって!」



 危うく新の発言をラブ要素で受け取りそうになったことを素直に認め、そして頭を抱えた。

 唯子の言う通り、あんな思わせぶりな言動が中学時代から変わっていないのなら、大抵の女子は恋に落ちるし相当な人数を泣かせてきたのだろう。



「私が予防線を張っているからいいものを……」



 もしもまっさらな心で聞き入っていたら、自分も間違いなく落ちてしまうところだったと恐怖のようなものを感じた。

 別に新が悪いわけではない。

 優しくて、誠実な面と少し大人げない悪戯好きなところもあるけれど、総合的にとても素敵な人なのはわかっている。

 だけど、恋をするにはハードルが高すぎる人でもあることを、重々承知しているから。



「近付き過ぎたのかな……」



 そんなことを夜通し考え込んでいたら、就寝時間が遅くなってしまい、今朝寝坊したというわけだ。


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