新くんはファーストキスを奪いたい



「ちゃんと伝わってないのもわかってる。鞠が自覚あるのかないのかは知らないけど」
「っ……自覚?」
「俺が“良いなと思ってる”クラスの女子が“仲良い”意味だと本気で思ってる?」
「そ、それは……」
「ちゃんと鞠のこと異性として“好きだな”って思ってるに決まってんじゃん」
「⁉︎」



 少し拗ねたように、だけど気持ちが込められた新の言葉に、鞠はもう誤魔化せる段階を遥かに超えてしまったことを察した。


 そして真剣な眼差しと不安げに動く唇は、明らかに普段の新ではなくて。
 その溢れそうな想いは、誰彼構わず言ってきたような慣れた様子でもない。

 紛れもなくこれは本気の告白なんだということも、鞠の全身に伝わり駆け巡ってしまった。


 こういう時、なんて声を発したら良いのか分からなくて、鞠は義務教育のうちに教えて欲しかったのに。と中学の担任の顔を思い出しかけた時。
 表情が固まったまま一言も声を発さない鞠を心配して、新の優しい声が届けられる。



「鞠、聞いてる?」
「き! 聞いて、聞いてる、けど」
「けど」
「や、わかんない。待って、一回聞かなかったことに」



 頭の整理がつかないうちに出てくる言葉は、本当にしょうもないものばかり。
 ただ、できれば一旦持ち帰って、お布団の中でほかほかに温めて一晩寝かせたいくらいに時間を要する案件であることは理解している。


 今の鞠にはこの状況が非現実的すぎて、直ぐには対応しきれないと判断したのだ。


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