新くんはファーストキスを奪いたい



 それから一週間後の晴れた土曜日。

 街の中心部にある駅前で十時に待ち合わせすることになっていた鞠は今、電車を降り改札を出たところで。



(服、変じゃないかな……)



 オフホワイトのシャツワンピースに、スクエアバッグを肩から下げる本日の服装を気にしていた。

 今日は気温も例年より高いらしく、暖かいそよ風も吹いて気持ちが良い。
 デートにはもってこいの条件が揃っていたが、鞠の心はずっと戸惑いが続いていた。



(新くんは、私のこと好きってことで良いんだよね?)



 未だに信じ難い新の告白を受けて一週間が経ったが、その間学校では普段通りに過ごしていて、返事を催促するようなメールも来ない。

 そのせいでどんどん現実味が薄れてしまい、特別きっかけになるようなことなんてあったかな?などと思考がぐるぐるしてしまう。


 ただ、このデートに関しての連絡だけはとても熱心で、どこ行きたい何したい?と前向きなのが窺えた。

 だからせめて、楽しい一日だったと思ってもらいたいという鞠の気持ちが、大きく膨らんでいく。



「鞠〜」
「⁉︎」



 その時、すでに駅前の待ち合わせ場所に到着していた新が、改札を出てウロウロしていた鞠を微笑みながら呼ぶ。

 しかしそこには、俳優が現れたと言わんばかりに通行人の視線を独り占めする新の姿があった。



(眩しっ!)



 白のTシャツに黒のスキニーパンツと、清潔感あふれるシンプルスタイルにプラスして。
 顔の良さが完成度を爆上げしている。

 あまりの眩しさに後退りしたくなる鞠だったが、逃げる間もなく新が駆け寄ってきた。



「おはよ」
「おはよ、お待たせしてごめん」
「俺も今着いたところだから、それより」
「ん?」



 何か言いたげな新に不安を覚えながら視線を向けると、その耳が少しだけ赤く染まっているように見えた。



「今日も可愛いね」
「はっ! なな、え?」
「さて、まずは映画見るんだったよな」



 新の言葉で不意打ちを喰らった鞠が顔を真っ赤にさせて声を失っている中。
 好きな女の子の私服姿にますます気分を良くした新は、予定していた映画館に向かうため歩き始めた。

 本当はその手を取って歩きたい欲を、今はまだ我慢して。


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