新くんはファーストキスを奪いたい



 映画館の座席へ、隣同士に座る鞠と新。
 スクリーンがよく見える真ん中の席を、鞠が事前にネット予約していたのでスムーズに入場できたのは良かった。

 しかし、先ほど発券機で入場券を二枚手にした時、重大なミスに気がついた。



「予定していたアクション映画、観れなくてごめん」
「全然大丈夫。それに俺は好きだよ、ゾンビ映画」
「う、私は苦手なのにどうしてこんなミスを! 自分を恨むわ」



 事前に観る予定だったアクション映画の座席予約をしたはずが、鞠の選択ミスでゾンビ映画の予約をしていたらしい。

 なので二人は今、これからゾンビ映画が上映される座席に座っている。



「やっぱり観るのやめる?」
「そ、それはもったいないから何としても元取る!」
「でもほんと、俺は鞠と一緒ならなんでも良いんだよ」
「……え?」
「鞠のそういうミスも結構楽しいって思ってるし」
「わ、私は結構ショック受けてるんだけど、初めてのデートなのに」



 初デートが自分の苦手なゾンビ映画を選択するなんて、とすっかりテンションが下がってしまった鞠だが。
 その言葉を聞いて、新はハッとしたように口元へ指を添えて考え込むように呟いた。



「あ、そっか。初めて……そうだよな」
「どうしたの?」
「今更だけど、鞠は初めてのデートが俺でよかったの?」
「え……」



 すると、会場内の照明が落とされて、暗闇に大きなスクリーンがふわっと浮かび上がる。

 本編に入る前に他作品の予告映像が流れ始め大音量が会場に鳴り響く中、そのスクリーンを眺めながら鞠は静かに考えた。



『初めてのデートが俺でよかったの?』



 好きな人とのファーストキスを夢見る鞠の願望を、新は知っていて。
 だからデートも初めてと知った今、そんな不安にでも駆られたのだろうか。



(私、何で初めてのデートを新くんに捧げたんだろ)



 多分、新自身は初めてのデートではないだろうと感じ取っていた鞠。

 クラスメイト、友達のノリでOKした?

 いや、この前ガッツリと告白されているし、新の気持ちを知っていながら今日のデートに挑んでいることも自分で理解していた。


< 75 / 138 >

この作品をシェア

pagetop