新くんはファーストキスを奪いたい



 時は戻って、昼休み中の教室。
 自席で一人弁当を食べ終えた鞠は、机の上を片すと花柄のメモ帳へ一生懸命に何かを記入していた。



(……メール、手紙、電話、家押しかける、近所の公園にでも呼び出す?)



 あの自己紹介から一週間が経ち、気の合いそうな友達を探すこともなく。
 北斗への告白方法をメモに書き出し、彼なら何が一番効果的かを黙々と考えていた。

 すると教室内では、ある座席だけ異様に人集りができており。
 その中心には、やはり新が座っている。



「ねぇねぇ、(あらた)くんてどこ中?」
「……青中(あおちゅう)
「芸能事務所に所属してる?」
「……してない」
「彼女は?」
「……いらない」



 新の席の前には、他のクラスからやってきた三人の女子が視界に入ろうと頑張っていて。
 その会話に混ざろうとするクラスの男子も興味ありげに集まっていた。

 そんな中で少し面倒そうにしながらも、女子達の質問には逐一答える新に対し。
 離れた席に座る鞠は、律儀な人だな〜と感想を抱いていた。

 その時、何気なく視線を向けていた鞠と、不意に視線をずらした新が。
 教室の端と端という距離で、パチっと目を合わせることになる。



(っ……!)



 突然の出来事に驚いた鞠が咄嗟に視線を外すも、心臓の鼓動が速さを増して、それが自然と頬を赤くしていく。

 朝、初めて挨拶を交わしたせいで調子が狂っているんだ。
 そう考えた鞠は、目の前のメモに集中するため、再度ペンを滑らせた。






「どうしたの新くん? 窓から何か見えた? 飛行機?」
「いや、別に」
「そうだ、今度みんなでどっか遊びに行こうよ!」



 女子の一人が窓に目を向けていた新を気にするものの、本人は直ぐに前を向いて返事をした。

 しかし、興味のない会話を遠くに感じながら、何か考え込んでいることに。
 周りの誰も、気づくことはなかった。


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