新くんはファーストキスを奪いたい
「で? 鞠は何に自信ないの」
「……そこ、聞き流してくれてもいいよ」
「流すわけないだろ、正直に言ってよ」
夕日に照らされた新の瞳がいつにも増して綺麗で、そこに上乗せして真剣な表情が鞠の心を引き込む。
もう逃れられないと理解して、視線を逸らした鞠は震える声で正直に打ち明けた。
「こうやって、新くんの隣を歩くことも一緒にデートすることも自信ない」
「どういう意味?」
「私、普通だから。人気者でモテる特別な新くんに釣り合うような、女の子じゃないから……」
こんなことを考えて口にしてしまう自分が惨めでカッコ悪くて、新に愛想を尽かされてもおかしくなかった。
もしもこれで新が納得してしまったら、少し悲しさが襲ってくるかもしれないけれど。
多分、もうこんな思いしなくて済むという安心感も覚えてしまう。
そんなことばかり考える自分が一番嫌いだとも思った鞠は、俯いたまま新の返事を待っていると、微かに風が吹いて周りの木々が葉擦れの音を響かせた。
「鞠、間違ってるよ」
「え……」
はっきりと聞こえた台詞に、心臓が摘まれたように痛くて思わず顔を上げた。
すると、あまり見た事のない悲しげな表情を浮かべている新がいて、更に話を続ける。
「鞠を好きになったのは俺であって、自信ないのも俺の方」
「でも……」
「もしもそんな理由で振られたら、悲しみに暮れるのは俺なんだよ」
「か、悲しいのは私も同じ……っ」
言いかけてハッとした鞠が、口元を押さえて固まった。
悲しいことを自覚すると言うことは、新のことを少しは想いを寄せていると告げてしまったようなもの。
まだ不確かな感情のうちに、そんなことを口走ってしまったら。
それは、新に大きな期待を持たせることになる。