新くんはファーストキスを奪いたい
「俺はその事実を知った時からずっと、鞠のファーストキスを奪いたいって願ってるんだよ」
「……っえ⁉︎」
「でもその条件は、鞠の“好きな人”にならないと鞠を傷つけてしまうから」
「……っ」
耳元で囁かれると、背筋に電流が走ったような感覚に陥って身動きが取れなくなる。
加えて、新の心臓の音と包み込まれる温もりが、鞠に初めての感情を芽生えさせる。
きっと、この欠片が積もり積もって大きな“好き”になる気がして。
少しだけ、このまま時間が止まっても良いかもしれないと考えた。
「今は抱き締めるだけに留めておくけど、これから毎日確認するから」
「え、な、何を⁉︎」
「俺を好きになってくれた瞬間、すぐに奪いに行けるように」
そう話しながら鞠の体を解いた新は、とても満足したように満面の笑みを浮かべると、再び手を繋いで歩き始めた。
「よし、充電終わり。家までゆっくり歩こう」
「……もう、どうしてそう切り替えが早いの」
「あれ、鞠の顔真っ」
「夕日のせいです!」
まだまだ不安なことは多くても、こうして話すことで解決できることも多くある。
ゆっくりではあるけれど、着実に二人の関係が良い方向に進んでいると信じて。
鞠は新の隣を並んで歩くことに、ようやく幸せを感じられるようになった。
しかし――。
そんな二人を離れた場所から眺めていたのは、鞠と同じ地元で幼馴染の北斗。
休日の部活動を終えていた北斗は、この公園内にあるバスケットゴールでシュート練習をしていた帰りだった。
「なんだよ、やっぱ付き合ってんじゃん……」
仲良く手を繋ぎながら公園内を歩き、先ほどは抱き合っていた上に鞠は拒む様子もなかった。
長く一緒にいた幼馴染が、他の男に触れられている現実を目の当たりにして。
北斗の中でモヤモヤしていた感情が、一気に溢れ出た瞬間でもあった。