新くんはファーストキスを奪いたい



 鞠の通う滝谷高校は七月に学祭が二日間行われるため、その一ヶ月前である本日はクラスの出し物を決める予定が立っていた。

 学級委員長の司会進行の下、一組の全員で多数決をとった結果――。



「クレープ屋さんに決まりました〜」
「やったー!」



 喜びの声を上げる、ほとんどの女子票で決まったようなもので、男子に関しては正直「何でもいい」という思いが滲み出ていた。

 それは鞠の後ろに座る恭平も同じだったが、いざ決まると楽しみな様子で。



「現役クレープ店員の腕の店どころじゃん?」
「あれ? でも恭平くん接客メインで調理はしてないんじゃ」
「あ、バレた」



 現在も新の姉である椛のクレープ店でバイトしている恭平は、てへっと笑って見せた。
 鞠に可愛さをアピールしたつもりが、残念ながら苦笑いだけが返ってくる。

 次に担当決めへと話が進み、学級委員長の指示で書記が黒板に書き出していく。

 調理担当、接客担当、そして装飾担当。

 その文字を眺めていて、ふと鞠が思ったのは――。



(新くんがクレープ作って、恭平くんが接客したら最強かも……)



 そんな理想像が浮かんだが、あの新が進んで調理担当に手を挙げるわけもなく。
 今も自席で頬杖をつき、黒板をただじっと眺めているだけだった。

 その時、新と一緒に昼休みを過ごす仲間の一人である“果歩(かほ)”が、すっと手を挙げて。



「先生、良いこと思いついたんだけど!」



 そう言って、売り上げ貢献のための名案を述べ始めた。


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