新くんはファーストキスを奪いたい
「というわけで、自分の担当忘れんなよー」
兼松先生は黒板に書かれた生徒の名前を一通り眺めながら、やるからには売上を黒字にすると意気込みを見せた。
各担当へはクラスの人数が程よく振り分けられて、偏りによる揉め事も起こらず。
ただ調理担当は大変そうという理由で人数の集まりが少しだけ悪く、何をしたいか迷っていた鞠が加わることになり。
恭平は希望通りの接客を担当することになった。
その他にも内装の装飾担当、メニュー表や小物を作成する小道具担当があって。
そんな中、新の担当はというと。
「急遽推薦により決まった客引き担当。全ては一条にかかっているぞ」
「先生、俺別にやりたいなんて言ってないけど」
「一組の全期待を背負って、すべての人間を呼ぶくらいに頼むな」
「……(聞こえてない)」
学祭当日にお客さんを呼び込むため、校内を回って宣伝する。
いわゆる歩く広告塔に任命された。
その不本意な状況に眉根を寄せる新だったが、ふと鞠の席に視線を向けた時。
(お客さんたくさん連れてきてね新くん!)
(お前のその顔面で女の子たくさん連れてこいよ!)
「……」
期待と尊敬の眼差しで、恭平と共に手を合わせてこちらを見てくるから、それ以上の反論ができなくなる。
「じゃあそれぞれグループ作って色々決めていけー」
兼松先生の一言で移動をはじめた生徒たちは、担当ごとに集まってリーダー決めと計画を立てるため会議を行う。
恭平が属する接客担当のグループでは、思い切ってコスプレしちゃう?なんて盛り上がっていて、
新の席では先ほど客引き担当を提案した果歩と数人の女子が集まって、宣伝用プレートのデザイン画について話し合っていた。
確かに、学祭当日に新が校内を宣伝に回ってくれたら、お客さんをたくさん連れてきてくれそうだ。
ただ、客引きを提案した果歩の思惑はそれだけではなくて。
実は同じ担当となる自分たちが、新との時間を独占したかっただけ。
あわよくば、告白のチャンスを窺いたいだけだったのだ。