新くんはファーストキスを奪いたい
その日最後のSHRが終わり、クラスメイトが早々に教室を出ていく。
しかし、特に時間に追われていない鞠は、ゆっくりと帰り支度をしていた。
入学してから数日は、北斗と共に帰宅するのが日課だったが。
北斗は既に部活動を開始したため、これからは一人帰宅が約束されていた。
(一人で駅に向かうの、なんか寂しいなぁ)
一緒に駅まで向かう友達が出来れば、こんな思いもせずに済む、なんて思う一方で。
北斗への告白もあるし、始まったばかりの高校生活は問題が山積みで頭を抱えそうになる。
そして、ハッと閃いたような表情を浮かべた。
(そうだ! せっかくだしバスケ部覗いてから帰ろう!)
そう考えた途端、徐々に元気が漲る鞠は笑顔で教室を出ようとした時。
聞くつもりのなかった遠くでの会話が耳に入ってきた。
「新くん、二人きりで話したい事があるんだけどちょっといい?」
「あー、うんわかった」
「ありがとう……!」
他クラスのゆるふわな可愛らしい女子が、緊張と照れ笑いを滲ませながら新を呼び出していた。
彼女の様子から、どう見てもこれは告白による呼び出しであると予測する鞠。
教室を出ていく二人の背中を目撃して、そのタイムリーな状況に対し密かにドキドキした。
(すごいなみんな……)
幼馴染の北斗に三年前から好意を寄せているのに、勇気が持てなくて未だに告白できていない。
でも、新を呼び出して告白しようとしている他クラスの今の女子は、その勇気の準備ができたという訳で。
(そっか、グズグズしていたら誰かのものになっちゃうもんね)
特に新のような絶大な人気を誇る男子は、直ぐに彼女ができてしまうイメージ。
そして、たとえ破局したとしてもまた直ぐ別の女子と交際できてしまったりする、苦労知らずなタイプ。
住む世界が違いすぎて理解はできないけど、先ほど他クラスの女子の行動は、鞠の心に火をつけた。
意を決して拳を握った鞠は、北斗が部活をしているであろう体育館へと走った。