新くんはファーストキスを奪いたい
それからというもの、本番に向けて来る日も来る日も学祭準備に追われた。
午前の通常授業を終えて、午後は学祭の準備に取り掛かる全学年のクラス。
中でも入学して初めての大きな行事を迎えようとしている一年生は、悩みながらも楽しんでいて。
その一人である鞠もまた、梨田とすっかり仲を深め。
連日、昼休みに一緒に弁当を食べるほどになった。
「本当に嬉しいよ〜入学してからずっとぼっちだったもん」
「私いつも中庭のベンチで食べてたんだよね」
「そうだったんだ」
「でも今は、三石さんと美味しいデザート店の話してる方が楽しい」
「えへへ、ありがとう。私も楽しい」
元々お菓子が好きな梨田は作り方を勉強するようになってから、将来はデザート専門店を持ちたいという夢を持つ。
ただ食べるのが好きな自分とは違い、目標にするなんてすごいなぁと尊敬していた鞠。
そしてますます、梨田とお友達になれて良かったと思っていた。
そんなランチタイムの女子トークを楽しむ二人の前に現れたのは。
既に昼食を済ませた新と、ニヤニヤしながら声をかけてきた恭平。
「調理担当のお二人さん」
「え? どうしたの?」
「クレープ作るの、練習してみませんか?」
「え?」
恭平の提案に疑問を抱いた鞠は、続いて新の顔色を窺った。
すると、優しく微笑んだあと近くの席に腰を下ろして詳細を話しはじめる。
「恭平が思いついたんだけど、姉ちゃんの店で事前練習できないかって」
「でもお店の邪魔に……」
「定休日なら使っていいって、姉ちゃんに許可もらった」
「うそ、本当に?」
驚きながらも喜びを滲ませる鞠に、事情を知らない梨田は首を傾げた。
それに気付いて、鞠は補足の説明をする。
「新くんのお姉さんがクレープ店経営していて、恭平くんはそこでバイトを」
「え! そうだったんだ。そんな本物の場所で練習させてもらえるなんて……」
将来、自分の店を持ちたいという夢を持つ梨田にとっては、とても興味深い話。
言葉にせずとも、是非お願いします!と顔に書いてあって、鞠も自然と嬉しくなる。