新くんはファーストキスを奪いたい



「でも定休日ってことは、明後日?」
「椛さんは不在なんだけどね、鞠ちゃんこれそう?」
「もちろん行く!」
「じゃあ四人で特訓しよ!」
「え? 四人?」



 学祭での調理担当は鞠と梨田。恭平は店の関係者として三人。
 あと練習に付き合ってくれる、もう一人とは――。



「俺に決まってるし」
「え、新くんも参加するの?」
「鍵持ってるから」
「あ、そっか」



 以前、新が定休日のクレープ店へと鍵を開けて侵入したことを思い出して納得する鞠。

 てっきり新が作り方のコツやノウハウを教えてくれると期待したが。
 新は調理担当ではないのでそこまでしてもらうのも悪い。
 それに、場所提供してもらえるだけでも有り難いことだから、と考えを改めた。

 期待を外してしまったような鞠の表情を見て、新はふっと笑い声を漏らして微笑む。



「もちろん、練習にも付き合うよ」
「あ、良かった。ありがと……」
「俺がどれだけ上手か、鞠が一番よく知ってるだろ」
「えっ⁉︎」



 それは新の手作りクレープを食べたことがある鞠だけがわかる、未だに二人だけの秘密の出来事。

 あの時の記憶が蘇って思わず頬に熱を蓄えた鞠に、恭平は何か勘付いた。
 そして梨田に耳打ちする。



「梨田さん、今の新の言い方やらしいと思わない?」
「確かに、誤解を生みます」
「ちょ! なんて会話してんの二人とも!」



 しっかりと鞠に聞こえていたそのひそひそ話に、梨田はごめんねと謝っていたが恭平はずっとニヤニヤしていた。

 こうして明後日の放課後は、定休日の椛の店を借りてクレープ作りの特訓をすることに。


 しかし当日になって参加できない人物が出るなんてことは、この時誰も予想していなかった。


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