新くんはファーストキスを奪いたい
店舗での練習を明日に控えた本日は、朝からあいにくの雨模様。
鞠たちが校内で活動する間も降り続けていたため、グラウンドや道路には水たまりが多数発生していた。
その様子を学祭準備中の教室の窓から眺めていた梨田が、メニューを書き出していた鞠と会話を続ける。
「予報じゃ明日の朝には止むらしいんだけどね」
「そっか、早く梅雨明けしてほしい」
「三石さん雨嫌い?」
「うーん、嫌いではないけど……」
そう言いかけてペン先を止めた鞠は、雨が降ると蘇る思い出を脳内に映し出す。
小学校の頃、幼馴染の北斗とよく相合傘をして帰宅した淡い記憶。
その後二人は恋人同士に、なんて展開を迎えていれば恋のきっかけとなる可愛らしい記憶として今でも語り継がれただろうに。
今ではただの、雨が降れば思い出す幼い頃の記憶の一つだ。
(不思議、告白まで考えていたのに……)
告白もできないまま失恋した日に、新とのきっかけが生まれて。
徐々に距離が縮まって、まさかの告白をされて初めてのデートまでして。
今、好きな人はいますか?と突然の街角インタビューに捕まったら。
その可能性として一番初めに脳裏に浮かぶ顔は間違いなく――。
「一条くん」
「ええ⁉︎」
「と西原くんに感謝だね。明日私たちの練習付き合ってくれるから」
「あ、うん。そうだね」
突然の名指しにドキリと心臓が跳ねた鞠は、慌てて笑顔を作って何事もなく対応する。
しかし梨田の話には続きがあって、鞠の鼓動をより速いものに変化させた。
「三石さんは、一条くんと付き合ったりしないの?」
「え! な、んで?」
「今まで気付かなかったけど、一条くんが三石さんと話してる時すごく楽しそうなんだよね」
「っ……」
「人間味溢れるというか、感情が読み取りやすくなるというか」
鞠の隣にいるようになったことで感じた、新への分析結果を語り始める梨田。
それは既に新が鞠を好きだという前提の話しぶりで、先日告白されている鞠にとって身に覚えのある内容だった。