新くんはファーストキスを奪いたい



 だけど、自分の気持ちが確定していない以上は“いいえ”を答えるしか道はない。
 冗談混じりに返事をしようと唇を動かした時、最後に梨田がポロッと何気なく漏らした。



「波長が合ってお似合いだと思うんだけどな、私は」



 それを聞いて、グッと言葉を飲み込んだ鞠は梨田の顔をじっと見つめる。

 鞠と新がお似合いだと言ったその声は、決して冗談で言っているような様子ではなく。
 釣り合いを悩んでいた鞠の中で、このまま好きに進んでいくことを許された気分になった。



「梨田さんは、私と新くんがお似合いに見える?」
「もちろん! 二人が幸せならそれが“お似合い”って意味でしょ」
「二人が幸せ……」



 それは、鞠の中で思い留まっていた異物を徐々に溶かしてくれて。
 本来考えるべき道筋を教えてくれたような気がした。



(そっか。新くんは、そのお相手に私を選んでくれたってこと……?)



 相手を幸せにしてあげたい気持ち。自分自身を幸せにしてあげたい気持ち。
 私は新くんを幸せにできるのだろうか。ではなく、幸せにしてあげたいと思っているのか。

 そう考えた途端、新への想いが大きく膨らんできたことを自覚して胸をグッと押さえる。



「三石さん?」
「あ、ごめん。なんかね、わかってきたかも」
「え?」
「ありがとう、梨田さん」



 気を取り直したように笑ってみせた鞠は、メニューの書き出しを再開させた。

 失恋ですっかり鈍っていた恋の仕方を、ようやく思い出すことができた鞠は。
 新の微笑んだ表情を思い出して、心が温まっていくのを感じていた。


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