新くんはファーストキスを奪いたい
09. 幼かった相合傘は
高校から徒歩で約五分の最寄駅までの道を、傘をさして並んで歩く鞠と梨田。
しかし、隣の鞠が明らかに気分を落としていることを心配して。
触れない方が良いと思っていた梨田が、元気づけようとついに声をかけた。
「三石さん。さっきの会話、あまり深く考えない方がいいよ」
「え?」
「ほら、あることないこと言う人もいるし」
「あ……うん、そうだね」
「そもそも告白かどうかもわからないし」
「……うん」
鞠が眉毛を下げて微笑み返してくれたが、それが空返事であることもわかってしまった梨田はますます心配してしまう。
できれば、鞠の心の不安を取り除いてあげたいが。
多分今の自分ができることはあまりなくて、考えているうちに駅に到着してしまった。
駅前のカフェにでも誘うべきか梨田が迷っていると、鞠はいつも通りここで別れを告げる。
「じゃあ梨田さん、また明日、練習頑張ろうね」
「あ、うん……バイバイ」
バスで帰宅する梨田をその場に残し、鞠は足早に改札口に向かっていった。
平気なはずがない鞠に何もできなかったと落ち込む梨田。
けれど、そんな鞠に今必要なのはやはり、新の言葉以外には思いつかなくて。
明日、学校で様子を見て恭平に相談するべきかどうか、梨田自身も頭を抱えることになった。