新くんはファーストキスを奪いたい
雨の影響か、少し遅れて到着した電車に乗り込んだ鞠は、空いている座席に腰を下ろして濡れている自分の靴をじっと眺めた。
(振られても、キスできるってどういうことなんだろ……)
振られるということは、その相手を恋愛対象として見ていないということ。
だとしたら、キスなんてできるはずがない。
それが世間一般の思考だと思っていただけに、先ほどの女子たちの会話は鞠には理解できない内容だった。
自分がキス未経験だから理解し難いだけ?なんてことも考えたりして。
だけど真面目に深く考えようとすると、自己防衛の本能が働いて考えないように仕向けてくる。
その繰り返しをしているうちに、自宅のある駅に到着してしまった。
重い足取りのまま改札を出て、傘を開く準備をした鞠は。
未だに降り続く雨音を耳にして手を止め、曇に覆われた空模様を見上げる。
(……早く晴れてほしい)
この心のモヤも空を覆う雨雲も。
しかしどうすれば晴れるのか、その方法がわかっていても怖くて鞠には実行できない。
そう、新本人に尋ねて否定さえしてくれたら安心できる、とても簡単なこと。
だけど、もしも肯定されてしまったらと思うと、対処法を知らない鞠の足がすくんだ。
「鞠」
「っ⁉︎」
その時、雨音に混じって名前を呼ばれた鞠が振り向くと、同じく学校帰りの北斗の姿があった。
ただ、朝から雨が降っていたにもかかわらず、北斗の手には傘が握られていないことを不審に思う。
「北斗、今日部活は?」
「急遽休みになった」
「そう、傘は?」
小学生の頃の記憶が蘇った鞠は、眉根を寄せて問いかけた。
流石に高校生になってもあの訳のわからない理由で傘を持たない、なんてことはしないはず。
すると、ここで鞠に会えたのは天の思し召しだと考えた北斗が、両手を合わせて懇願する。
「鞠、家まで傘入れて」
「……はぁ?」