新くんはファーストキスを奪いたい



 以前、デートの帰り道に新と歩いた公園内を、今日は雨の中を何故か北斗と歩いている。
 しかも、相合傘という特殊な状況で。

 ただ、北斗はこの春に身長を測ったら180センチに到達した。
 こうも身長差があっては小学生の頃にした相合傘のようにはいかなくて……。



「北斗、傘持ってくれるのはいいんだけど自分の肩濡れてるよ」
「鞠がもう少しくっついてくれないとはみ出るんだよ」
「なんでコンビニで傘買わないの」
「今買ったら、負けな気がして」
「誰と戦ってんのよ」



 朝から雨が降っていたにもかかわらず、何故北斗が傘を持っていなかったのか。
 話を聞いたところ、彼女である唯子の傘が登校中に壊れてしまったらしく、帰り際に北斗の傘を貸してあげたとか。

 下校時は駅まで唯子と相合傘をして、電車に乗ったは良いが。
 電車を降りた後のことをあまり考えていなかったらしい。

 そんな時、偶然同じ電車に乗っていた鞠を見つけたというわけだ。



「鞠がいて助かったよ、持つべきものは幼馴染」
「え、私迷惑してるけど」
「冷たいな、久々に一緒に帰ってるっていうのに」



 一緒に帰らなくなったのは、北斗の部活動が始まったことと。
 北斗に彼女ができたことが要因なのに、と鞠が不満を漏らしそうになった時。

 GWに部活の手伝いをした際、唯子としていた会話を思い出す。



『新って昔からあんな感じだから思わせぶりな態度で女の子寄せやすくて』
『鞠ちゃんが傷つくことがなければいいなと』



 新の良からぬ部分を知っているような口ぶり。
 しかしあの時、それ以上を聞かなかった鞠は、今になって後悔した。

 あの時、もしもその先の話を聞いていたら。
 “振られてもキスはできる”ということと何か関係があったのなら。

 もっと早くに、新との距離を置くことができたのではないかと。

 それに――。


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