新くんはファーストキスを奪いたい
『北斗も心配してたんだよ?』
心なしか雨の降り方が弱まってきた気がして、明日には止むらしいと言っていた梨田の言葉の信憑性が増した。
自宅まであと少し。
この勝手の悪い相合傘ももうすぐ終了というところで、突然北斗が口を開いた。
「あのさ、アイツと仲良くすんのやめたら?」
「……誰のこと?」
「一条新」
何故今、そんなことを言い出したのかわからない。
ただ、唯子が言っていた“北斗も心配している”という理由が。
新の何かしらを知っていての発言だとしたら――。
「な、なんで」
「……鞠に、全然見合ってないから」
「何か、唯子ちゃんから聞いたの?」
「……唯子は最後まで何も教えてくれなかった」
話の続きを断った鞠の反応を見て、新の話はもうやめると決めていた唯子。
鞠の耳に入るのを避けるために、尋ねてきた北斗にさえも話さずにいたのに。
人伝てに人伝てを重ねた他のクラスの女子が、新にまつわる噂を知っていて。
ついに北斗はそれを耳にしてしまった。
「あいつ中学ん時、告白してきた先輩振ったんだって」
「それが、何……」
「先輩は手切れとしてキスを要求してきて、あいつはそれを受け入れた」
「…………え」
「以降、縁切る代わりに振った女と」
すると、会話の途中で歩くのをやめてしまった鞠が、北斗の持っていた傘からはみ出る。
それに気付いた北斗が慌てて引き返し傘の中に鞠をおさめるが、その髪が少し雨に濡れた。