世界くんのタカラモノ
振り返れば殿村(とのむら)が黒のジーンズにポロシャツという爽やかなコーデで女の子の手を引いている。

俺はその子手前、大人らしく挨拶をした。

「休日にこんなとこで会うとはですね、殿村本部長」

「御堂部長も家族サービスかな。僕の奥さんも今日は久々のランチに行ってるもんでね」

「知ってますよ。今頃森川さんと二人で暴れるほどうまいランチ食ってる頃です」

「だろうね、二人のはしゃぐ顔が目に浮かぶよ」

「ですね。その分パパ業が大変すけど」

「確かにね」

俺が肩をすくめて見せるのを眺めながら殿村がふっと笑った。

「さ、結菜(ゆいな)ご挨拶できるかな?」

結菜と呼ばれた女の子が、殿村の横で恥ずかしそうにワンピースの裾を握りしめている。その姿と顔は明菜に瓜二つだ。

「お子さん、大きくなりましたね」

「そうだな、今年四つだから御堂のとこと同い年だよ」

殿村と明菜が結婚したのは確か俺達が結婚したすぐあとだった。あのお堅くて慎重な我が社のお殿様が、まさかの授かり婚をしたとあって社内の女子社員からは一時期お殿様ロスが囁かれ、社内の女子社員の中にはショックで寝込んだ人がいたほどだ。
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