その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
 次の週末、ベルテは朝から応接室に来るように陛下からのご伝言です。と侍女から伝言を受けた。
 何だろうと不安に思っていると、朝食が終わる頃にエンリエッタがやって来た。

「エンリエッタ様、どうされたのですか?」
 
 ベルテは嫌な予感がした。
 エンリエッタは第二側妃。ディランの生母で表向きはベルテの義母になる。
 彼女を表現するなら、年齢不詳の永遠の乙女。
 もともと顔が童顔で年齢より若く見える顔立ちだが、淡い暖色系が好きでピンクやオレンジ、黄色といった色にフリルやレースをふんだんに使ったドレスを好んで着ている。
 可愛い物が大好きで、生まれたのが息子だと知って、本気でがっかりしたのは後継者争いを心配したのではなく、おそろいのドレスが着られないからだと聞いている。息子のディランが物心つくまでは、そういった服を着せていた。
 ディランにとってはそれが黒歴史になっている。
 それでも、息子のことはとても大事にして愛情深いのは有名だ。
 そしてディランに対して出来ないことを、彼女はベルテに求めてくる。
 悪気はないことはわかるが、濃いブロンズ色の髪色をしたベルテにはっきり言って淡い色は似合わない。
 ベルテ自身も寒色系や紺やグレイと言った色が好きだ。錬金術の実権にもフワフワしたスカートより、かっちりとした形のものが好きだったりする。

「陛下からのご伝言、お聞きになりましたか?」
「はい」
「そのための仕度を手伝いに来ました」
「え? 仕度?」
「あなたのことですから、いつもの地味なワンピースや学園の制服を着るつもりでしょ?」
「……」
「やっぱり。そんなことだと思いました」

 はっきり言って、特に着る物について何も考えていなかったというのは本当のところだ。
 王女として最低限と礼儀と節度は必要だと思う。
 だが、それと必要以上に華美であることは別だ。

「あなたたち、お願い」
「はい、エンリエッタ殿下」

 エンリエッタがパンと手を打ち鳴らすと、大勢の侍女が一斉にベルテの部屋に押しかけてきた。

「な、なななな、なんですか?」

 五名の侍女に取り囲まれ、その迫力にベルテは恐れおののいた。

「さあ、時間がありません。さっさとお願いね」
「かしこまりました」
「え、あ、あの、エ、エンリエッタ様?」

 体の大きな侍女二人がベルテの両腕を掴む。彼女たちは普段は侍女として働いているが、いざとなればエンリエッタの護衛も務めることができる侍女だとベルテは記憶していた。
 彼女たちは腕を掴むとベルテを浴室に連れて行った。
 
「陛下の命令です。いつも以上にベルテ様を可愛くしろと」
「な、なぜ?」

 小さい頃から周りに世話をする侍女がいる環境で育ってきたので、彼女たちの前で裸になることはベルテも特に抵抗はない。
 しかしいきなり朝から浴室で体を磨かれ、香油をたっぷり塗り込まれるのは慣れていない。

「大事なお客様をお迎えするので、失礼の無いようにということです」

 手際の良い侍女達はあっという間に浴室からベルテを部屋に戻し、髪を乾かしいつもの三つ編みではなく、大人っぽくハーフアップにし、コテで巻いていく。
 
「ま、待って、お化粧は…」

 普段化粧などしないベルテは抵抗した。

「大丈夫、ベルテ様の良さを損なうようなことはしません。その可愛い目を強調し、唇も思わずキスしたくなるようにしてあげます」
「キ…」
「まあ、私としたことが。ふふ、キスという言葉だけで顔を赤くするなんて、ベルテ様もお可愛らしいわね」

 そんなベルテの反応をエンリエッタは微笑ましく見る。

「殿下、すべて整いました」

 化粧が終わると、今度はエンリエッタが用意したドレスを着せられた。
 薄紫の布地に綺麗な銀糸の刺繍が差されたドレスと、細い鎖に細かい宝石が散りばめられた首飾りが掛かられた。

「まあ、素敵ねベルテ様。あなたの美しさが際立っているわ」

 エンリエッタがベルテの仕上がりを鏡越し見て、簡単のため息を吐く。
 光の輪が見えるくらいに光るブロンズ色の髪は、美しく結い上げられ、ベルテを大人っぽく見せている。
 肌も透き通るように輝き、薄く差した紅が自然な初々しさを演出している。
 ペリドットの瞳を縁取る睫はくりんと上を向き、唇はエンリエッタが指示したとおり、ぷっくりとして艶やかだった。
 そこには理想の「王女ベルテ」がいた。

「さすが私の自慢の娘だわ」

 ベルテを娘だと言ってくれるのは嬉しいが、「自慢の」と言われると、妙な圧迫感がある。

「あの、ここまでして何があるのですか?」

 身なりを整えるのはわかるが、ここまで着飾る理由がわからない。

「それは、陛下から直接お話を聞いて下さい。さあ、行きましょう。そろそろ時間だわ」

 エンリエッタに促され、ベルテは彼女と共に父の待つ部屋へと向かった。

 
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