その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
第四章 白薔薇を愛でる会
再び王たちの待つ部屋に戻り、婚約について二人で話し合ったことを話すと、皆が「良かった」と言って喜んだ。
もちろんお互い打算で決めた期限付きであることは伏せた。
皆に良かった。おめでとうと言われ、ヴァレンタインは一人一人に受け答えしていたが、ベルテの心は複雑だった。
(おめでたいのかしら)
結婚が慶事だと言われているのは知っているが、ベルテはそれが人生の目標だとは思っていない。
女性の人生は誰かの娘、誰かの妻、誰かの妹、誰かの姉、そして誰かの母として評価されることが多い。
国王の娘のベルテは、今度はヴァレンタイン・ベルクトフの婚約者と呼ばれるようになる。
(まあ、ヴァレンタイン・ベルクトフの妻と呼ばれる可能性は低いけど)
ベルテが国家錬金術師になれるかなれないかがはっきりした時に、改めて婚約をどうするか話し合おうと彼は言った。
その間約一年半から二年を、棒に振ってしまうことになるかも知れないのに、なぜあんな取り引きをしたのだろう。
「それではベルテ様、また近いうちお会いしましょう」
別れ際、再びヴァレンタインが手を掴もうとしたので、さっとベルテは手を後ろに隠した。
さっきは不覚だったが、ここには父やエンリエッタ、ディランやベルクトフ家の人たちがいる。
他の人たちがいちゃつくのを見るのもいやだが、自分がいちゃつくのを見られるのはもっと嫌だ。
ベルテの行動に、ヴァレンタインは怒るでもなく、ただクスリと笑った。
(どうせ子供っぽいとか思っているんだわ)
「本当に……いいのですか?」
後日改めて食事でもと約束し、ベルクトフ家の面々が引き上げ、四人だけになると、ディランが浮かない顔で聞いてきた。
「ディラン、せっかくベルテが婚約を受け入れたというのに、お前は水を差すようなことを言うな」
国王がそんな息子を窘める。
「お前はベルクトフ小侯爵が義兄になるのが気に入らないのか? それとも姉を取られるようで嫌なのか」
「ち、違います。僕はそんな子供ではありません」
揶揄されてディランは慌てて否定した。
「ディランったら背伸びしたい気持ちもわかるけど、十歳は十分子供だと思いますよ」
「母上まで。そんなんじゃないです。僕は単純に姉上が心配なだけで……」
ディランは慌てて言う。
「別に……婚約するのは姉上だし、僕は姉上が決めたことなら反対はしません。ただ、単純に『白薔薇を愛でる会』が暴れだしたりしないかと心配しているだけです」
「あ、暴れる? 『白薔薇を愛でる会』?」
「やっぱり、姉上はご存知なかったのですね」
「な、なんのこと? 園芸か何か?」
「本気で言っていますか?」
バカにした目でディランがベルテを見る。
「白薔薇は、ヴァレンタイン……小侯爵のことです。ホワイトブロンドだからそう呼ばれているようです」
「し、白薔薇……あ、でもその言葉、聞いたことがある。あれって彼のことだったんだ。愛でる会というから、皆で薔薇を育てて品評会をしたり、花を見ながらお茶したりするのかと思っていたわ」
ベルテもヴァンと庭いじりをしながらよく話しをした。薔薇が特別好きなわけでもないが、他の人も同じようにそうして楽しんでいるのかと思った。
「それで、その会は何をする会なの?」
白薔薇が本当の花ではなく、ヴァレンタインのこもなら、何をするのかと純粋に疑問が湧いた。
「ベルクトフ小侯爵を囲んで一緒にお茶とか?」
「あの人がそんなことするように見えますか?」
呑気に尋ねたベルテに、またもや冷たい視線と共にディランが呆れたとため息を吐く。
「そんなの、わからないわよ。彼のこと知らないんだもの」
「まあ、ベルテ様、婚約者になる人のこと、そんなふうに仰ってはだめよ。これからお付き合いされる方なんですから」
エンリエッタが軽くベルテの行動を咎める。
「そんなこと言われても……普通は何をするものなのですか?」
婚約者同士、一緒にいて出かけたりするのは想像がつくが、具体的に何を話し、何をするものなのだろう。
同性の友人もおらず、普段授業以外は本を読んだり錬金術の勉強をしていることが多いので、周りの人が何をしているのか知らない。
「先程お二人で何を話されていたのですか?」
「そ、それは……」
この婚約の利点についてほぼ一方的に話しをされ、最後に手の甲にキスされたことを思い出し、ベルテは頬を赤く染めた。
もちろんお互い打算で決めた期限付きであることは伏せた。
皆に良かった。おめでとうと言われ、ヴァレンタインは一人一人に受け答えしていたが、ベルテの心は複雑だった。
(おめでたいのかしら)
結婚が慶事だと言われているのは知っているが、ベルテはそれが人生の目標だとは思っていない。
女性の人生は誰かの娘、誰かの妻、誰かの妹、誰かの姉、そして誰かの母として評価されることが多い。
国王の娘のベルテは、今度はヴァレンタイン・ベルクトフの婚約者と呼ばれるようになる。
(まあ、ヴァレンタイン・ベルクトフの妻と呼ばれる可能性は低いけど)
ベルテが国家錬金術師になれるかなれないかがはっきりした時に、改めて婚約をどうするか話し合おうと彼は言った。
その間約一年半から二年を、棒に振ってしまうことになるかも知れないのに、なぜあんな取り引きをしたのだろう。
「それではベルテ様、また近いうちお会いしましょう」
別れ際、再びヴァレンタインが手を掴もうとしたので、さっとベルテは手を後ろに隠した。
さっきは不覚だったが、ここには父やエンリエッタ、ディランやベルクトフ家の人たちがいる。
他の人たちがいちゃつくのを見るのもいやだが、自分がいちゃつくのを見られるのはもっと嫌だ。
ベルテの行動に、ヴァレンタインは怒るでもなく、ただクスリと笑った。
(どうせ子供っぽいとか思っているんだわ)
「本当に……いいのですか?」
後日改めて食事でもと約束し、ベルクトフ家の面々が引き上げ、四人だけになると、ディランが浮かない顔で聞いてきた。
「ディラン、せっかくベルテが婚約を受け入れたというのに、お前は水を差すようなことを言うな」
国王がそんな息子を窘める。
「お前はベルクトフ小侯爵が義兄になるのが気に入らないのか? それとも姉を取られるようで嫌なのか」
「ち、違います。僕はそんな子供ではありません」
揶揄されてディランは慌てて否定した。
「ディランったら背伸びしたい気持ちもわかるけど、十歳は十分子供だと思いますよ」
「母上まで。そんなんじゃないです。僕は単純に姉上が心配なだけで……」
ディランは慌てて言う。
「別に……婚約するのは姉上だし、僕は姉上が決めたことなら反対はしません。ただ、単純に『白薔薇を愛でる会』が暴れだしたりしないかと心配しているだけです」
「あ、暴れる? 『白薔薇を愛でる会』?」
「やっぱり、姉上はご存知なかったのですね」
「な、なんのこと? 園芸か何か?」
「本気で言っていますか?」
バカにした目でディランがベルテを見る。
「白薔薇は、ヴァレンタイン……小侯爵のことです。ホワイトブロンドだからそう呼ばれているようです」
「し、白薔薇……あ、でもその言葉、聞いたことがある。あれって彼のことだったんだ。愛でる会というから、皆で薔薇を育てて品評会をしたり、花を見ながらお茶したりするのかと思っていたわ」
ベルテもヴァンと庭いじりをしながらよく話しをした。薔薇が特別好きなわけでもないが、他の人も同じようにそうして楽しんでいるのかと思った。
「それで、その会は何をする会なの?」
白薔薇が本当の花ではなく、ヴァレンタインのこもなら、何をするのかと純粋に疑問が湧いた。
「ベルクトフ小侯爵を囲んで一緒にお茶とか?」
「あの人がそんなことするように見えますか?」
呑気に尋ねたベルテに、またもや冷たい視線と共にディランが呆れたとため息を吐く。
「そんなの、わからないわよ。彼のこと知らないんだもの」
「まあ、ベルテ様、婚約者になる人のこと、そんなふうに仰ってはだめよ。これからお付き合いされる方なんですから」
エンリエッタが軽くベルテの行動を咎める。
「そんなこと言われても……普通は何をするものなのですか?」
婚約者同士、一緒にいて出かけたりするのは想像がつくが、具体的に何を話し、何をするものなのだろう。
同性の友人もおらず、普段授業以外は本を読んだり錬金術の勉強をしていることが多いので、周りの人が何をしているのか知らない。
「先程お二人で何を話されていたのですか?」
「そ、それは……」
この婚約の利点についてほぼ一方的に話しをされ、最後に手の甲にキスされたことを思い出し、ベルテは頬を赤く染めた。