その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
「ベルクトフ嬢、こんにちは」

 二人で話をするでもなく、黙って食事を口に運んでいると、シャンティエに声をかけてきた令嬢がいた。

「ビーチャム嬢、カサーラ嬢、ドルモア嬢」

 ビーチャム家の令嬢、ルイーズとその取り巻きのジンジャー・カサーラ伯爵令嬢、イエリー・ドルモア伯爵令嬢の三人は、他の生徒達が遠巻きにベルテ達を見ている中、堂々と話しかけてきた。
 三人はベルテの記憶では普通科に所属している。
 ビーチャム家はベルクトフ家と同じ侯爵家だ。年齢もベルテ達と同じだ。

「ベルテ様も、ごきげんよう」

 本来なら身分が高いベルテに先に挨拶すべきだろう。社交界では咎められるところだ。
 しかしここは学園内で、生徒はその身分を笠に着ては行けないというのが校則にあった。

「ビーチャム嬢、何か?」

 シャンティエが尋ねる。
 ルイーズは赤く鮮やかな髪をくるくるさせて、シャツがはきちれんばかりの胸の前に腕を組み、さらに強調している。
 一方シャンティエもベルテも胸の辺りは慎ましやかだ。
 それを自慢しに来たのだろうか。

「お二人はいつからそのような仲に?」
「そのような仲?」
「昼食をご一緒する仲です。ご婚約されていた時は一度もお二人がご一緒されているところを、お見かけしたことがありませんでしたのに」
「私達が同じテーブルで食事をしてはいけませんか?」

 シャンティエがつんとした態度で言い返す。

「そんなわけでは…」
「では、何が言いたいのですか?」

 シャンティエの言うとおり、食堂の何処で食べようと、同じ学園の生徒なのだから学年も身分も関係ない。

「その、少々噂を耳にしまして…」
「噂? どのような?」
「その…ベルクトフ小侯爵様に、婚約の話が出ているとか」

 ルイーズの言葉にベルテの鼓動が跳ねた。
 
「兄の婚約話…それがどうしたというのですか?」

 シャンティエはルイーズを見て、それからベルテを見る。

「本当なのですか?」

 ヴァレンタインに婚約の話が出ているのは事実だ。それはベルテが一番良く知っている。
 シャンティエがすぐそんな話はないと、否定しなかったため、ルイーズが身を乗り出してさらに尋ねた。

「そうだったとして、あなたにどのような関係がありますか?」

 今朝ヴァレンタインとの婚約のことを黙っていてほしいとベルテがお願いしたので、シャンティエはとぼけるつもりだった。

「直接関係はありませんが『白薔薇を愛でる会』の一員としては、見過ごせません」
「『白薔薇』? 何ですのそれ」
「え、ご存知ありませんの?」

 シャンティエの返事に、ルイーズ達は驚いている。
 ベルテも昨日「白薔薇を愛でる会」のことを聞いたばかりで、どこか眉唾もののように思っていたが実際にその一員だという人が現われて驚いていた。

「花を育てる会ですか? ベルテ様はご存知ですか?」
「ま、まあ…」

 自分もつい昨日聞いたばかりだし、自分と同じ反応をしたシャンティエに、ベルテは苦笑する。少しタイプは違うが、ベルテもシャンティエも、世間の常識に疎いらしい。「白薔薇を愛でる会」が常識かどうかは別として。

「『白薔薇』とは、我々の中でベルクトフ小侯爵様のことを称して、そう言います」
「我々? 兄が…白薔薇?」

 シャンティエが手で口元を覆い、純粋に驚いている。

「まさかご存じなかったのですか」
「私が知っておく必要があることは、知っているつもりです」

 知っていて当然のようにルイーズに言われ、シャンティエは言い返した。知らなかったと言うことは、どうでもいいことだからだと暗に言っている。
 その嫌味にルイーズたちも気づき、顔をひきつらせる。

「それで、兄のことを白薔薇と称して、あなたたちは何をなさっているのですか」
「もちろん、皆で遠くからお姿を崇め、その素晴らしさを讃え、そして情報を共有し、影ながら見守るのです」

 ルイーズが力説し、後ろの令嬢たちもそうだと力強く頷く。

「何のために?」

 シャンティエがそこを突っ込む。

「も、もちろん。『白薔薇の君』はこの世の奇跡で、同じ時代に生を受けそのお姿を見ることが出来ることを、皆で喜び合うのです」
「何だかわかりませんね。兄を神聖視されているように思いますが、兄は人間ですよ」
「ベルクトフ嬢は、同じ血が流れているから特別そう思われないのかもしれませんね。殿下はどう思われますか?」
「えっ、わ、わた、私? どう…とは?」

 急に意見を求められ、ベルテは挙動不審になった。 
 
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