その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
第五章 思いがけない贈り物
ベルテが王宮に戻ると、なぜかベルテの部屋にエンリエッタがいて、ニコニコ顔でベルテを出迎えた。
学園の制服から私服に着替える時間も与えられず、「フフ、ふふふふふ」とエンリエッタが近寄ってきた。
「な、何ですか、エンリエッタ様、その笑いは」
嫌な予感しかしないベルテは、恐る恐る訪ねた。
「レネッタ、あれを見せてあげて」
「かしこまりました、殿下」
しかし彼女はその問いには答えず、王宮女官長のレネッタに命令を出す。
その時、テーブルの上に大きな赤い薔薇の花束と、何か綺麗に包装された平たくて大きめの箱があることに気づいた。
「それは?」
「決まっているでしょ、あなたへの贈り物よ」
「贈り物? エンリエッタ様が、私にですか?」
誕生日でもないし、特に試験の結果が出たわけでもない。試験の結果が良かったり、成績が上がったりすると、エンリエッタはベルテにいつもご褒美をくれる。
何でもいいと言うと、悲しそうな顔をするので当たり障り無く、本や食べ物などにしている。
「そんなわけないでしょ」
エンリエッタは力強く否定する。
「え、では誰ですか? 父上?」
「もお~、陛下なわけがないでしょ。あなたの婚約者からに決まっているでしょ」
じれったくなってエンリエッタが答えた。
「え! ベルクトフ小侯爵?」
今日ルイーズたちが彼のことを何度も小侯爵と繰り返したので、ベルテもついそう言ってしまった。
「そんな色気も素っ気も無い言い方やめて、婚約者なんだから愛称とまでは言わないけど、せめて名前で呼んであげてもバチはあたらないわ」
レネッタがどうぞと言って、ベルテの前に赤い薔薇の花束と、包装された箱を差し出す。
薔薇は優に二十本はあるだろか。そして箱は王都でチョコレートや焼き菓子で有名な店「フラワーガーデン」のものだった。ベルテもエンリエッタから何度かそこのお菓子をもらったことがある。その大きさから察するに、店でもかなり値の張る詰め合わせだ。
「しかも、ほらカードも付いているのよ」
じゃ~んと、花束の中にあるカードをエンリエッタが手で示す。
「ねえねえ、何て書いてあるか読んでみて。あの白薔薇の君が婚約者にどんな言葉を書くのか気になるわ」
エンリエッタの様子から察するに、花束が届いてからずっとそわそわしていたのだろう。
「殿下、落ち着いて下さい。殿下宛てに来たのではないのですから」
「わかっているわ。陛下は折に触れ今でも花を下さるし、必ずカードも贈ってくださるわ。でも、今の若い子達がどんなふうなのか知りたいじゃない」
(え、父上って、今でもそんなことをしているの)
自分の父の意外なマメさにベルテは心の中でつっこんだ。
「ねえね、早く早く。あ、でも、二人だけの秘密なら無理に言わなくていいわよ。それならそうと言ってくれれば、私もそこは弁えるから」
ベルテ以上に期待しているエンリエッタに、レネッタも呆れている。
(こんなのもらったら、断りにくいじゃない。このまま送り返したらだめかな)
そんな考えがよぎったが、この場でそんなことは口が裂けても言えない。花にもお菓子にも罪は無い。
とりあえずエンリエッタのもの凄い圧力に負け、ベルテはカードを開いた。
開いた瞬間、ポンっと音がした。
「あら、音声カードね」
エンリエッタがそう言った直後、「ベルテ様」と、ヴァレンタインの声が流れ始めた。
「昨日は私との婚約をお受け頂き、ありがとうございます。ベルテ様に相応しい婚約者となれるよう、これから精進いたします。まずは私の感謝の気持ちを伝えたいと思い、何か贈り物をと思い立ちました。しかし、恥ずかしながらこれまで家族以外の女性に何かを贈ったことがないため、こういう場合、何を贈ればよいのかまるで検討がつきませんでした。
それに、ベルテ様が何を好きか、何を嫌いかもまるで知らないことに途方に暮れ、恥ずかしながら婚約者や奥方のいる同僚達に意見をもらうため、尋ねたところ、やはり花が一番だということで花を贈ります。
ベルテ様のことを想像すると、もっと淡く可憐な花が似合うと思ったのですが、これも同僚達が婚約者に誠意を伝えるなら赤い薔薇一択だという意見が多数あり、その意見を受け入れることとしました。
また、先輩たちも花だけでなく、女性の好みそうな菓子も贈るべきだと言われ、どこがいいか教えてもらい、閉店間際の店にかけつけ、高貴な素晴らしい女性に贈るならどれがいいか店の者に尋ね、勧められた物を購入いたしました。
人からの助言でしか贈り物を選べない不調法者で申し訳ございません。ですが、取り繕うより自分のありのままを知ってもらいたいと思いました。
今度お会いしたときにはベルテ様のお好きな花や、お好きな食べ物など、色々教えて頂きたいと思います。
そして、もし、もし叶うなら、贈り物を気に入って頂けたなら、いえ、気に入らなくても、お返事をいただけると恐悦至極に存じます。
あなたの忠実なる僕にして信奉者 ヴァレンタイン・ベルクトフ」
学園の制服から私服に着替える時間も与えられず、「フフ、ふふふふふ」とエンリエッタが近寄ってきた。
「な、何ですか、エンリエッタ様、その笑いは」
嫌な予感しかしないベルテは、恐る恐る訪ねた。
「レネッタ、あれを見せてあげて」
「かしこまりました、殿下」
しかし彼女はその問いには答えず、王宮女官長のレネッタに命令を出す。
その時、テーブルの上に大きな赤い薔薇の花束と、何か綺麗に包装された平たくて大きめの箱があることに気づいた。
「それは?」
「決まっているでしょ、あなたへの贈り物よ」
「贈り物? エンリエッタ様が、私にですか?」
誕生日でもないし、特に試験の結果が出たわけでもない。試験の結果が良かったり、成績が上がったりすると、エンリエッタはベルテにいつもご褒美をくれる。
何でもいいと言うと、悲しそうな顔をするので当たり障り無く、本や食べ物などにしている。
「そんなわけないでしょ」
エンリエッタは力強く否定する。
「え、では誰ですか? 父上?」
「もお~、陛下なわけがないでしょ。あなたの婚約者からに決まっているでしょ」
じれったくなってエンリエッタが答えた。
「え! ベルクトフ小侯爵?」
今日ルイーズたちが彼のことを何度も小侯爵と繰り返したので、ベルテもついそう言ってしまった。
「そんな色気も素っ気も無い言い方やめて、婚約者なんだから愛称とまでは言わないけど、せめて名前で呼んであげてもバチはあたらないわ」
レネッタがどうぞと言って、ベルテの前に赤い薔薇の花束と、包装された箱を差し出す。
薔薇は優に二十本はあるだろか。そして箱は王都でチョコレートや焼き菓子で有名な店「フラワーガーデン」のものだった。ベルテもエンリエッタから何度かそこのお菓子をもらったことがある。その大きさから察するに、店でもかなり値の張る詰め合わせだ。
「しかも、ほらカードも付いているのよ」
じゃ~んと、花束の中にあるカードをエンリエッタが手で示す。
「ねえねえ、何て書いてあるか読んでみて。あの白薔薇の君が婚約者にどんな言葉を書くのか気になるわ」
エンリエッタの様子から察するに、花束が届いてからずっとそわそわしていたのだろう。
「殿下、落ち着いて下さい。殿下宛てに来たのではないのですから」
「わかっているわ。陛下は折に触れ今でも花を下さるし、必ずカードも贈ってくださるわ。でも、今の若い子達がどんなふうなのか知りたいじゃない」
(え、父上って、今でもそんなことをしているの)
自分の父の意外なマメさにベルテは心の中でつっこんだ。
「ねえね、早く早く。あ、でも、二人だけの秘密なら無理に言わなくていいわよ。それならそうと言ってくれれば、私もそこは弁えるから」
ベルテ以上に期待しているエンリエッタに、レネッタも呆れている。
(こんなのもらったら、断りにくいじゃない。このまま送り返したらだめかな)
そんな考えがよぎったが、この場でそんなことは口が裂けても言えない。花にもお菓子にも罪は無い。
とりあえずエンリエッタのもの凄い圧力に負け、ベルテはカードを開いた。
開いた瞬間、ポンっと音がした。
「あら、音声カードね」
エンリエッタがそう言った直後、「ベルテ様」と、ヴァレンタインの声が流れ始めた。
「昨日は私との婚約をお受け頂き、ありがとうございます。ベルテ様に相応しい婚約者となれるよう、これから精進いたします。まずは私の感謝の気持ちを伝えたいと思い、何か贈り物をと思い立ちました。しかし、恥ずかしながらこれまで家族以外の女性に何かを贈ったことがないため、こういう場合、何を贈ればよいのかまるで検討がつきませんでした。
それに、ベルテ様が何を好きか、何を嫌いかもまるで知らないことに途方に暮れ、恥ずかしながら婚約者や奥方のいる同僚達に意見をもらうため、尋ねたところ、やはり花が一番だということで花を贈ります。
ベルテ様のことを想像すると、もっと淡く可憐な花が似合うと思ったのですが、これも同僚達が婚約者に誠意を伝えるなら赤い薔薇一択だという意見が多数あり、その意見を受け入れることとしました。
また、先輩たちも花だけでなく、女性の好みそうな菓子も贈るべきだと言われ、どこがいいか教えてもらい、閉店間際の店にかけつけ、高貴な素晴らしい女性に贈るならどれがいいか店の者に尋ね、勧められた物を購入いたしました。
人からの助言でしか贈り物を選べない不調法者で申し訳ございません。ですが、取り繕うより自分のありのままを知ってもらいたいと思いました。
今度お会いしたときにはベルテ様のお好きな花や、お好きな食べ物など、色々教えて頂きたいと思います。
そして、もし、もし叶うなら、贈り物を気に入って頂けたなら、いえ、気に入らなくても、お返事をいただけると恐悦至極に存じます。
あなたの忠実なる僕にして信奉者 ヴァレンタイン・ベルクトフ」