その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
国王一家の到着に皆が注目する。
王太子廃嫡となったアレッサンドロに代わり、次男のディランが王太子となり、正妃が離宮に退きその一族も今や落ち目となっている。
そして唯一の王女、ベルテが白薔薇の君と呼ばれるヴァレンタイン・ベルクトフと婚約した。
これまでなかなか婚約者を決めなかった独身の令息の中でダントツ人気のヴァレンタインに、これを狙っていたのか、上手いことをやったとやっかむ者もいる。
しかし、女性の大半は彼が特定の人を作ったという事実にショックを抱いていた。
(うう、視線が痛い)
注目されていることに慣れている様子の父たちやヴァレンタインと違い、学生の身であったこともありこれまでベルテは公の場にあまり出席してこなかった。
華美に着飾った慣れないドレス姿を人前に晒し、制服で何割増しにも格好良さが際立つヴァレンタインの隣に立たなくてはならないのだ。
公開処刑のような気分である。
出来るだけ俯き、国王たちのために用意された観覧席へと向かうと、そこにベルクトフ侯爵夫妻とシャンティエが待っていた。
「ベルテ様」
ベルテに声をかけてきたシャンティエは、赤を基調としたドレスを着ていた。
それがデルペシュ卿の色だと、誰もがわかる。
「シャンティエ様」
ベルクトフ侯爵夫妻が国王たちに挨拶をしている横で、シャンティエとベルテが言葉をかわす。
「ごきげんよう、素敵なドレスですね。良くお似合いですわ」
「エンリエッタ様のご趣味です」
ヴァレンタインに言ったのと同じセリフを繰り返した。
「ベルテ様がご自分から率先してそのようなドレスを着る方でないことは存じあげていますわ。でも、好きな色でなくても、お似合いなのは嘘ではありません。時には冒険してみるのもいいものです」
「シャンティエ、それは私に喧嘩を売っているのか」
「あら、褒めているのですわ」
「シャンティエ様も、お似合いです。改めてご婚約、おめでとうございます」
ちらりと国王の側に立つデルペシュ卿を見ると、こちらを窺っている彼と目が合った。
「残念ながら、彼は審判と陛下の護衛で一緒にはいられませんの」
「それは残念ですね」
「でも、今日の私を見てとても綺麗だと、赤らめて言っていただけたので、それで我慢しますわ」
「デルペシュ卿が……」
およそ女性の装いに無頓着そうな彼にしては、かなり頑張ったのだろうと驚く。
「デルペシュ卿が羨ましい。ベルテ様にも同じように言わせてもらったのに、私の真意がいまひとつ伝わらないのだ」
ヴァレンタインが不満を零す。
「な! ヴァレンタイン様、そんなこと……」
「ブライアン様とお兄様では同じことを言っても、真実味がまるで違いますわ」
「それはどういう意味だ。私は誰彼構わず美辞麗句を並べたりはしない。思ったまま、伝えたいことを言っている」
「お兄様が言うと、軽く聞こえてしまうのです。信じていただくには、誠意を示しませんと」
「誠意」
少し考え込んで、ヴァレンタインはそうだと思い立ってベルテの手を顔の前に持ち上げた。
「では、今日の優勝をベルテ様に捧げます。そうしたら、少しは私の本気が伝わるでしょうか」
「ゆ、優勝を…、私に?」
また大きく出たと思ったが、そう簡単に優勝できるものなのだろうか。
「大丈夫ですか、そのような約束をして。ブライアン様が出ないとは言え、お兄様より力も体格も遥かに上回る方も大勢いますわよ」
武闘大会は初めてではないシャンティエが、簡単にはいかないことを示唆する。
「妹なのに、兄の強さを知らないのか」
「強いことは承知しておりますが、他の方々も負けず劣らず、実力はあるとブライアン様も申しておりました」
デルペシュ卿が言っていたなら、そうなのだろう。
だとしたら、ヴァレンタインが優勝するのは可能性として低いのではないだろうか。
「本気、というと?」
「もちろん、私がベルテ様をお慕いしているという気持ちのことです」
「は?」
またもや間抜けな声が漏れた。
婚約話が出た時に、彼は他の女性たちから逃れるために、婚約するとだと言ったのに、どうしてそういう話になるのか。
それともこの前も思ったが、ここまでやり抜かないと、彼を諦めない強烈な信奉者がいるのだろうか。
「いかがですか、ベルテ様」
「ま、まあ、もし優勝できたら、あなたの気持ちが本当だと、信じてもいいです」
「ありがとうございます。シャンティエ、今の聞いたな。お前が証人だ」
「わかりました。せいぜい頑張ってください。応援しております」
シャンティエも半ば呆れて返事をした。
「それでは、また後で。ひとつ勝利を収めるたびに、あなたに花を捧げます」
「花?」
「騎士はひとつ勝利を勝ち取る度に、家族や恋人、妻や娘、仕える家の女主人などに花を捧げるのです。勝つ度に同じ人でも違う人でもいいのですが、射止めたい相手がいたら、何度も同じ人に渡す人もいます」
「いつもは母やシャンティエに渡しておりましたが、今年はベルテ様にだけ捧げます」
などと真剣に言われ、「頑張ってください」としか言えなかった。
王太子廃嫡となったアレッサンドロに代わり、次男のディランが王太子となり、正妃が離宮に退きその一族も今や落ち目となっている。
そして唯一の王女、ベルテが白薔薇の君と呼ばれるヴァレンタイン・ベルクトフと婚約した。
これまでなかなか婚約者を決めなかった独身の令息の中でダントツ人気のヴァレンタインに、これを狙っていたのか、上手いことをやったとやっかむ者もいる。
しかし、女性の大半は彼が特定の人を作ったという事実にショックを抱いていた。
(うう、視線が痛い)
注目されていることに慣れている様子の父たちやヴァレンタインと違い、学生の身であったこともありこれまでベルテは公の場にあまり出席してこなかった。
華美に着飾った慣れないドレス姿を人前に晒し、制服で何割増しにも格好良さが際立つヴァレンタインの隣に立たなくてはならないのだ。
公開処刑のような気分である。
出来るだけ俯き、国王たちのために用意された観覧席へと向かうと、そこにベルクトフ侯爵夫妻とシャンティエが待っていた。
「ベルテ様」
ベルテに声をかけてきたシャンティエは、赤を基調としたドレスを着ていた。
それがデルペシュ卿の色だと、誰もがわかる。
「シャンティエ様」
ベルクトフ侯爵夫妻が国王たちに挨拶をしている横で、シャンティエとベルテが言葉をかわす。
「ごきげんよう、素敵なドレスですね。良くお似合いですわ」
「エンリエッタ様のご趣味です」
ヴァレンタインに言ったのと同じセリフを繰り返した。
「ベルテ様がご自分から率先してそのようなドレスを着る方でないことは存じあげていますわ。でも、好きな色でなくても、お似合いなのは嘘ではありません。時には冒険してみるのもいいものです」
「シャンティエ、それは私に喧嘩を売っているのか」
「あら、褒めているのですわ」
「シャンティエ様も、お似合いです。改めてご婚約、おめでとうございます」
ちらりと国王の側に立つデルペシュ卿を見ると、こちらを窺っている彼と目が合った。
「残念ながら、彼は審判と陛下の護衛で一緒にはいられませんの」
「それは残念ですね」
「でも、今日の私を見てとても綺麗だと、赤らめて言っていただけたので、それで我慢しますわ」
「デルペシュ卿が……」
およそ女性の装いに無頓着そうな彼にしては、かなり頑張ったのだろうと驚く。
「デルペシュ卿が羨ましい。ベルテ様にも同じように言わせてもらったのに、私の真意がいまひとつ伝わらないのだ」
ヴァレンタインが不満を零す。
「な! ヴァレンタイン様、そんなこと……」
「ブライアン様とお兄様では同じことを言っても、真実味がまるで違いますわ」
「それはどういう意味だ。私は誰彼構わず美辞麗句を並べたりはしない。思ったまま、伝えたいことを言っている」
「お兄様が言うと、軽く聞こえてしまうのです。信じていただくには、誠意を示しませんと」
「誠意」
少し考え込んで、ヴァレンタインはそうだと思い立ってベルテの手を顔の前に持ち上げた。
「では、今日の優勝をベルテ様に捧げます。そうしたら、少しは私の本気が伝わるでしょうか」
「ゆ、優勝を…、私に?」
また大きく出たと思ったが、そう簡単に優勝できるものなのだろうか。
「大丈夫ですか、そのような約束をして。ブライアン様が出ないとは言え、お兄様より力も体格も遥かに上回る方も大勢いますわよ」
武闘大会は初めてではないシャンティエが、簡単にはいかないことを示唆する。
「妹なのに、兄の強さを知らないのか」
「強いことは承知しておりますが、他の方々も負けず劣らず、実力はあるとブライアン様も申しておりました」
デルペシュ卿が言っていたなら、そうなのだろう。
だとしたら、ヴァレンタインが優勝するのは可能性として低いのではないだろうか。
「本気、というと?」
「もちろん、私がベルテ様をお慕いしているという気持ちのことです」
「は?」
またもや間抜けな声が漏れた。
婚約話が出た時に、彼は他の女性たちから逃れるために、婚約するとだと言ったのに、どうしてそういう話になるのか。
それともこの前も思ったが、ここまでやり抜かないと、彼を諦めない強烈な信奉者がいるのだろうか。
「いかがですか、ベルテ様」
「ま、まあ、もし優勝できたら、あなたの気持ちが本当だと、信じてもいいです」
「ありがとうございます。シャンティエ、今の聞いたな。お前が証人だ」
「わかりました。せいぜい頑張ってください。応援しております」
シャンティエも半ば呆れて返事をした。
「それでは、また後で。ひとつ勝利を収めるたびに、あなたに花を捧げます」
「花?」
「騎士はひとつ勝利を勝ち取る度に、家族や恋人、妻や娘、仕える家の女主人などに花を捧げるのです。勝つ度に同じ人でも違う人でもいいのですが、射止めたい相手がいたら、何度も同じ人に渡す人もいます」
「いつもは母やシャンティエに渡しておりましたが、今年はベルテ様にだけ捧げます」
などと真剣に言われ、「頑張ってください」としか言えなかった。