その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
その後ベルテは父たちと共に、観覧席に並んだ。
目の前には他薦自薦問わず出場を決めた騎士団所属の騎士たちがずらりと並ぶ。
その中でも一番前にいるヴァレンタインの姿は、とても目立っていた。
大体百人位が出場するらしいと、解説のデルペシュ卿が教えてくれた。
騎士の中には平民出の者もいるが、組み合わせはクジで決まり、勝ち進めば恩賞が与えられるとあって、いつも白熱するそうだ。
「今年はベルクトフが珍しくやる気に満ちていまして、周りもそれに触発されてかなり士気が上がっております」
「ほう、ベルクトフが……」
「まあ、なぜかしら」
国王やエンリエッタが意味ありげにベルテを見返る。
「な、なんですか」
「うちのお姫様も、なかなか隅に置けないな」
「さながら勝利の女神と言ったところかしら」
「プッ」
エンリエッタの言葉を受けて、ディランが吹き出す。
「姉上が、女神」
「ほっといて。らしくないのはわかっているわ」
もはや突っ込む気にもなれない。
「なら、女神に相応しい役割を与えないといけないな」
何を思いついたのか、国王がにやりと笑う。
「静粛に! 今から国王陛下からお言葉を頂戴する」
国王が一歩前に進み出て、デルペシュ卿が風魔法を宿した魔道具を使って会場に声を響き渡らせた。
「どうぞ陛下」
「うむ」
コホンと咳ばらいをひとつして、国王は全員を眺め渡す。
「皆の者、今日のためだけでなく日頃から厳しい訓練に良く耐え、国のために尽くしてくれていること、この場を借りて礼を言う」
そしてそこで一呼吸置く。
「王家の者とそれに関わる者たちが起こした不祥事については、皆にも迷惑をかけた。これも余の不徳の致すところだ。本来なら責任をとって王位を辞しても当然のことと、重く受け止めている」
まさかの退位を仄めかす発言に、会場内にざわめきがおこる。
「静粛に!」
デルペシュ卿が一喝し、辺りはシンと静まり返った。
さすが騎士団長の一喝だとベルテも感心する。
「しかし新たに王太子となった第二王子のディランは余の息子にはもったいないほどに、かなり利発で立派な国王となることは間違いない」
皆の視線がディランに集まり、彼はすっと立ち上がって頭を下げた。
「だが、王太子はまだ十歳だ。まだまだ未熟者である。然るべき時期に彼に王位を譲る時まで、今暫くは余に仕えてもらいたい」
「国王陛下バンザイ!」
「エドマンド王に敬礼」
口々に国王を讃える声が騎士たちから上がる。国王がそれを制するように手を挙げると、まわりは一瞬にしてまともやしんとなる。
「それから、此度は王女のベルテも参列しており、皆の勇姿を共に見物させてもらう」
突然自分の名前が出て、一斉に無数の目が集まった。
「あれが…」
「王女様」
「初めて見た」
「お可愛らしい」
そんな囁きが風に乗って聞こえてくる。
「まだ学生の身分ゆえに、これまであまり公式の場には出てこなかったが、このとおり愛らしい自慢の王女だ」
大衆の面前で親ばかぶりな発言をされて、ベルテはぎょっと目を見開いた。
「既に周知しておるので、知っている者もいると思うが、この程ヴァレンタイン・ベルクトフと婚約が決まった」
今度はヴァレンタインに視線が注がれる。
彼は胸の前に手を添えて、会釈する。
観覧者からふう〜っとため息が漏れた。
「しかし、これは実力主義の大会だ。皆、ベルクトフとが王女の婚約者だからと言って、手加減は不要だ。どんどん普段の鍛錬の成果を発揮し、勝ち進んでほしい」
わあ〜っと歓声が上がる。
「勝者には勝つ度に褒美が与えられる。そして観覧者に勝利の花を捧げる栄誉も与えられる。家族でも恋人でも、片思いの相手でも、想う相手に渡すといい。今日に限ってなら、エンリエッタにでも構わないぞ」
「まあ」
エンリエッタを横目で見て、国王がにやりと笑う。エンリエッタも満更でもなさそうにはにかむ。
「うわ、息子としては恥ずかしいな」
ディランがこっそりベルテにだけ聞こえる声で呟いた。
エンリエッタは、年齢よりずっと若く見えて可愛いが、実の息子として母親の照れる姿は恥ずかしいのだろう。
「それから、ベルテ王女にも」
「え!」
驚いて国王を見る。ディランが隣で面白そうに笑っている。
「それから見事優勝したあかつきには、勲章とメダル、それから恩賞に加え、王女から祝福のキスを贈らせよう」
「ええ!」
一番驚いたのはベルテだ。
「王女殿下バンザイ」
「国王陛下バンザイ」
なぜか会場が一気に沸き上がる。
「ち、父上…、な、何を……」
陸に上がった魚のように、ベルテは口を開けたり閉じたりする。
「勝利の女神の祝福だ。皆、励め」
国王はベルテの反応などまるで気にせず、話を締めくくった。
「ご愁傷様。僕、男で良かったよ。良かったね、姉上、皆喜んでくれているよ」
「ディラン」
なぜか気になってヴァレンタインを見ると、明らかに気に入らない様子で、目が座っている上に何やら殺気を放っていた。
(わ、私のせいじゃないわ)
そして注意事項が告げられ、大会は幕を開けた。
目の前には他薦自薦問わず出場を決めた騎士団所属の騎士たちがずらりと並ぶ。
その中でも一番前にいるヴァレンタインの姿は、とても目立っていた。
大体百人位が出場するらしいと、解説のデルペシュ卿が教えてくれた。
騎士の中には平民出の者もいるが、組み合わせはクジで決まり、勝ち進めば恩賞が与えられるとあって、いつも白熱するそうだ。
「今年はベルクトフが珍しくやる気に満ちていまして、周りもそれに触発されてかなり士気が上がっております」
「ほう、ベルクトフが……」
「まあ、なぜかしら」
国王やエンリエッタが意味ありげにベルテを見返る。
「な、なんですか」
「うちのお姫様も、なかなか隅に置けないな」
「さながら勝利の女神と言ったところかしら」
「プッ」
エンリエッタの言葉を受けて、ディランが吹き出す。
「姉上が、女神」
「ほっといて。らしくないのはわかっているわ」
もはや突っ込む気にもなれない。
「なら、女神に相応しい役割を与えないといけないな」
何を思いついたのか、国王がにやりと笑う。
「静粛に! 今から国王陛下からお言葉を頂戴する」
国王が一歩前に進み出て、デルペシュ卿が風魔法を宿した魔道具を使って会場に声を響き渡らせた。
「どうぞ陛下」
「うむ」
コホンと咳ばらいをひとつして、国王は全員を眺め渡す。
「皆の者、今日のためだけでなく日頃から厳しい訓練に良く耐え、国のために尽くしてくれていること、この場を借りて礼を言う」
そしてそこで一呼吸置く。
「王家の者とそれに関わる者たちが起こした不祥事については、皆にも迷惑をかけた。これも余の不徳の致すところだ。本来なら責任をとって王位を辞しても当然のことと、重く受け止めている」
まさかの退位を仄めかす発言に、会場内にざわめきがおこる。
「静粛に!」
デルペシュ卿が一喝し、辺りはシンと静まり返った。
さすが騎士団長の一喝だとベルテも感心する。
「しかし新たに王太子となった第二王子のディランは余の息子にはもったいないほどに、かなり利発で立派な国王となることは間違いない」
皆の視線がディランに集まり、彼はすっと立ち上がって頭を下げた。
「だが、王太子はまだ十歳だ。まだまだ未熟者である。然るべき時期に彼に王位を譲る時まで、今暫くは余に仕えてもらいたい」
「国王陛下バンザイ!」
「エドマンド王に敬礼」
口々に国王を讃える声が騎士たちから上がる。国王がそれを制するように手を挙げると、まわりは一瞬にしてまともやしんとなる。
「それから、此度は王女のベルテも参列しており、皆の勇姿を共に見物させてもらう」
突然自分の名前が出て、一斉に無数の目が集まった。
「あれが…」
「王女様」
「初めて見た」
「お可愛らしい」
そんな囁きが風に乗って聞こえてくる。
「まだ学生の身分ゆえに、これまであまり公式の場には出てこなかったが、このとおり愛らしい自慢の王女だ」
大衆の面前で親ばかぶりな発言をされて、ベルテはぎょっと目を見開いた。
「既に周知しておるので、知っている者もいると思うが、この程ヴァレンタイン・ベルクトフと婚約が決まった」
今度はヴァレンタインに視線が注がれる。
彼は胸の前に手を添えて、会釈する。
観覧者からふう〜っとため息が漏れた。
「しかし、これは実力主義の大会だ。皆、ベルクトフとが王女の婚約者だからと言って、手加減は不要だ。どんどん普段の鍛錬の成果を発揮し、勝ち進んでほしい」
わあ〜っと歓声が上がる。
「勝者には勝つ度に褒美が与えられる。そして観覧者に勝利の花を捧げる栄誉も与えられる。家族でも恋人でも、片思いの相手でも、想う相手に渡すといい。今日に限ってなら、エンリエッタにでも構わないぞ」
「まあ」
エンリエッタを横目で見て、国王がにやりと笑う。エンリエッタも満更でもなさそうにはにかむ。
「うわ、息子としては恥ずかしいな」
ディランがこっそりベルテにだけ聞こえる声で呟いた。
エンリエッタは、年齢よりずっと若く見えて可愛いが、実の息子として母親の照れる姿は恥ずかしいのだろう。
「それから、ベルテ王女にも」
「え!」
驚いて国王を見る。ディランが隣で面白そうに笑っている。
「それから見事優勝したあかつきには、勲章とメダル、それから恩賞に加え、王女から祝福のキスを贈らせよう」
「ええ!」
一番驚いたのはベルテだ。
「王女殿下バンザイ」
「国王陛下バンザイ」
なぜか会場が一気に沸き上がる。
「ち、父上…、な、何を……」
陸に上がった魚のように、ベルテは口を開けたり閉じたりする。
「勝利の女神の祝福だ。皆、励め」
国王はベルテの反応などまるで気にせず、話を締めくくった。
「ご愁傷様。僕、男で良かったよ。良かったね、姉上、皆喜んでくれているよ」
「ディラン」
なぜか気になってヴァレンタインを見ると、明らかに気に入らない様子で、目が座っている上に何やら殺気を放っていた。
(わ、私のせいじゃないわ)
そして注意事項が告げられ、大会は幕を開けた。