その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
「え…わ、私?」
「はい。私の勝利は電化に捧げます。どうぞお受け取りください」

 驚いているベルテに対し、赤い薔薇を差し出し、エルマンはニコリと微笑む。

「エルマン・ルーガード、伯爵位を賜る家の次男で、騎士団でも同年代ではヴァレンタインと並び突出した実力の持ち主です」

 デルペシュ卿が彼の情報を話す。
 
「ほほう、ベルクトフより先に花を捧げに来るとは」

 国王が面白そうに囁く。

「姉上、さっさと受け取らないと、余計な注目を集めますよ」

 躊躇っているベルテに、ディランが横から忠告した。
 言われて周囲を見ると、近くにいる人たちがこちらを見ている。
 
「あ、ありがとう」

 冷やかしだろうけど、兎に角さっさと引き下がってもらおうと、花を受け取る。

「ありがとうございます。また次も勝ちましたら、お持ちします。応援してください」
「え?」

 優雅に胸の前で拳を握り合わせた騎士の礼を取り、彼はその場を立ち去った。

「やるね、姉上」
「からかわないで、多分、他に贈りたい女性がいなかったからだわ」
「ルーガードに花を贈る女性がいないなど、珍しい。いつも色々な女性に贈っております。ベルクトフと違い、家族に贈ったのを見たことがありません」

 ヴァレンタインがいつも家族に花を渡していると言うのは、本当らしい。
 
「そ、そうなんですね」
「どうします? あの様子ではまた次も勝ったら持ってきますね」
「どうすると言われても、断れないんでしょ」
「それはそうです」
「習慣なら仕方がないわ」
「ヴァレンタイン殿も、油断出来なくなりましたね」
「どういう意味?」
「あ、彼の試合が始まりましたよ」

 スクリーンにヴァレンタインの顔が大きく映し出され、周りから大きなため息と呟きが聞こえた。

「麗しい」
「尊い」

 対戦相手を睨みつけているその表情は、先程よりずっと険しい。
 対戦相手はその視線だけで怖気づいたのか、ヴァレンタインの攻撃に手も足も出せず、勝負は一瞬にして終わった。
 ヴァレンタインの剣も捌きのあまりの速さに、ベルテは何が起こったのかわからなかった。
 
「力の差が有りすぎよね。相手も可哀想に」

 ベルテは射竦められて為す術もなかった相手に同情する。

「本物の戦だったら、敵は自分の力量に合わせてなんてくれません。初めから実力の差はありましたが、ベルクトフの方がいつにも増して、殺気立っているようだ。彼らしくない」
「ベルテ様に良いところを見せようと気負っているのやも知れませんね」

 彼らしくないというデルペシュの話を聞いて、エンリエッタがその心理を想像して言った。

「そ、そんなわけありません。エンリエッタ様の勘繰り過ぎです」

 自分に誰かを鼓舞するほどの魅力などないのはわかっているが、さっきシャンティエと三人でいたときに、彼が言ったことを思い出す。
 あれは本心だろうか。
 あんなふうに異性から言われたことがないベルテは、彼に対してうまく切り返しができなくて、つい穿った態度で接してしまう。
 
(彼だって、素直に彼の好意を受け入れる女性の方がいいのでは?)

 他の令嬢たちのようには結婚に夢を抱いていないベルテは、自分でも可愛げないと思う。

 さっきのルーガードという騎士だって、何を考えてベルテに花を捧げようと思ったのか。自分に魅力があるからだとは、どうしても思えない。

「あ、ヴァレンタイン殿」

 ディランの声がして、はっと物思いから帰ると、こちらに向かって歩いてくるヴァレンタインの姿が見えた。

「ベルテ様、私の勝利をあなたに差し上げます」

 すっとヴァレンタインがベルテに花を差し出した。
 当然と言えば当然なのだが、彼がベルテに花を捧げるのを見て、「ヴァレンタインさまぁ〜」「嘘だと言ってぇ」などと忍び泣きが聞こえてくる。

「あ、ありがとう」

 花を受け取ろうとしたベルテが手を伸ばすと、その手をヴァレンタインがさっと掴んだ。

「あの、ヴァレンタイン様?」
「残念です。私が一番に花を捧げたかったのに」

 ぼそりとヴァレンタインが付け加えた。

「わ、私がほしいと言ったわけでは……」
「わかっています。慣例で断れないとは言え、私という婚約者がいるあなたに他の男が花を渡すのを見るのは、かなり不愉快でした」

 美しい眉を顰めて、遠くにいるルーガードを彼は睨みつけた。

「ベルテ様、見ていてください。必ずや優勝して、あなたからのキスを戴く栄誉を勝ち取りますから」

 掴んだ手の甲にキスを落とされ、ベルテは驚いて目を見開いた。
 周りからまたもや黄色い歓声が上がる。

「姉上」
「ベルテ様」

 横からディランとエンリエッタがベルテの名を呼ぶ。

「何か言ってあげなよ」
「そうよ」

 二人から何か言えとせっつかれ、ベルテは「け、怪我に気をつけて」としか言えなかった。
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