その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
第九章 好きな人
「他に好きな人がいるのに、他の人間と婚約するって、普通なの?」
ヴァレンタインと街へ出かける約束をした翌日、ベルテは作業に来ていたヴァンに呟いた。
『彼に想いを寄せる相手がいるというのは、噂ですよね』
「でも、騎士仲間に話してたって」
『それが嘘かもしれないではないですか』
「でも火のないところに煙は立たないって言うでしょ」
『ベルテ様は彼に好きな人がいてほしいのですか? ベルテ様にとってはどちらがいいのですか?』
そう尋ねられて、ベルテはどっちなのかと悩んだ。
『彼は約束を守って、ベルテ様が錬金術師を目指すことを陛下にお話してくれました。ベルテ様を思ってくれていると思いますよ。その彼を信じようとは思わないのですか』
黙ったままのベルテに、ヴァンがさらに問いかける。
『少なくとも彼はベルテ様との婚約を受け入れ、楽しんでいるように思えますが』
「私との婚約が既に発表されているから、気を遣っているだけよ」
それに対してベルテが言えたのはそれだけだった。
『ベルテ様は彼のことが嫌いなのですか?』
「好きとか嫌いとか、そういう対象として見たことがなかった相手よ」
勉強なら、頑張れば大抵のことは知ることが出来る。
錬金術も成功も失敗もあるが、失敗から学ぶことも多い。
でも、人との関わりは、ベルテの最も苦手とするところだ。
家族でもなかなか難しいのに、生まれも育ちも違う他人の考えなど、まるでわからない。
『好きでも嫌いでも……なら、好きになるように努力してみてはいかがですか?』
「ヴァンさんは、彼のこと好き?」
『……それは恋愛対象として、ですか?』
「え、あ、えっと、ヴァンさんが同性が好きならそっちでもいいけど」
ヴァンの性的嗜好がどうなのか知らないので、もしかしたら、そうなのかと遠慮がちに言った。
『同性は恋愛対象ではありません』
「そ、そう…あの、私はヴァレンタイン様のこと、人間として好きか聞いただけで……」
『私も、人付き合いがうまい方ではありません。学園長のように、うまくなりたいと思いますが、こうして土いじりをしている方が気楽で、落ち着くタイプです。ですから、私の意見は参考になるかわかりません』
「私も学園長のことは尊敬しているわ。あれは一種の才能だと思う」
『博識で懐の深い方です』
「そうね。私もそう思うわ」
いつの間にか二人で学園長を褒め合う。
『その学園長が彼を褒めていたのなら、その言葉を素直に信じてはいかがですか?』
ヴァレンタインの話題に戻って、ヴァンが提案した。
「ヴァンさんは、それでいいの?」
『え?』
「えっと、私…ヴァンさんのこと、お兄様みたいに思ってて、ほら、実の兄とは仲良くないし、弟ならいるけど…それで、厚かましいかな」
彼の年齢はわからないが、歳上なのはわかっていて、多分父よりは若い。
『つまり、私のことを兄のように慕ってくれていると?』
「い、嫌なら…」
『いいえ、光栄です』
「ほ、本当に?」
『ええ、王女様の兄など、とても畏れ多いことですが』
「そんなことないです」
名前くらいしか知らないが、家族より誰よりベルテは彼と会話(彼は文字だが)してきた。
彼は人見知りなだけで、学もあり物腰も優雅で信頼出来る人間だ。
『では、兄として言いますが、ベルテ様も少し人嫌いを克服された方がいいです。手始めにベルクトフ卿のことをもう少し知る努力をされてはどうでしょう』
「そ、それは……でも、他に好きな人がいるかも知れないのに、仲良くして意味がある?」
『良く相手を知れば、自ずとわかるかと思いますよ。本当にそんな人がいるのに、それを隠してベルテ様と婚約するような人間なのかどうかがね』
「私に…、わかる?」
『物の価値をわかるベルテ様なら、人の本質もきちんと見分けられると思いますよ』
ベルテは半信半疑ながら、ヴァンの言うとおりにすることにした。
ヴァレンタインと街へ出かける約束をした翌日、ベルテは作業に来ていたヴァンに呟いた。
『彼に想いを寄せる相手がいるというのは、噂ですよね』
「でも、騎士仲間に話してたって」
『それが嘘かもしれないではないですか』
「でも火のないところに煙は立たないって言うでしょ」
『ベルテ様は彼に好きな人がいてほしいのですか? ベルテ様にとってはどちらがいいのですか?』
そう尋ねられて、ベルテはどっちなのかと悩んだ。
『彼は約束を守って、ベルテ様が錬金術師を目指すことを陛下にお話してくれました。ベルテ様を思ってくれていると思いますよ。その彼を信じようとは思わないのですか』
黙ったままのベルテに、ヴァンがさらに問いかける。
『少なくとも彼はベルテ様との婚約を受け入れ、楽しんでいるように思えますが』
「私との婚約が既に発表されているから、気を遣っているだけよ」
それに対してベルテが言えたのはそれだけだった。
『ベルテ様は彼のことが嫌いなのですか?』
「好きとか嫌いとか、そういう対象として見たことがなかった相手よ」
勉強なら、頑張れば大抵のことは知ることが出来る。
錬金術も成功も失敗もあるが、失敗から学ぶことも多い。
でも、人との関わりは、ベルテの最も苦手とするところだ。
家族でもなかなか難しいのに、生まれも育ちも違う他人の考えなど、まるでわからない。
『好きでも嫌いでも……なら、好きになるように努力してみてはいかがですか?』
「ヴァンさんは、彼のこと好き?」
『……それは恋愛対象として、ですか?』
「え、あ、えっと、ヴァンさんが同性が好きならそっちでもいいけど」
ヴァンの性的嗜好がどうなのか知らないので、もしかしたら、そうなのかと遠慮がちに言った。
『同性は恋愛対象ではありません』
「そ、そう…あの、私はヴァレンタイン様のこと、人間として好きか聞いただけで……」
『私も、人付き合いがうまい方ではありません。学園長のように、うまくなりたいと思いますが、こうして土いじりをしている方が気楽で、落ち着くタイプです。ですから、私の意見は参考になるかわかりません』
「私も学園長のことは尊敬しているわ。あれは一種の才能だと思う」
『博識で懐の深い方です』
「そうね。私もそう思うわ」
いつの間にか二人で学園長を褒め合う。
『その学園長が彼を褒めていたのなら、その言葉を素直に信じてはいかがですか?』
ヴァレンタインの話題に戻って、ヴァンが提案した。
「ヴァンさんは、それでいいの?」
『え?』
「えっと、私…ヴァンさんのこと、お兄様みたいに思ってて、ほら、実の兄とは仲良くないし、弟ならいるけど…それで、厚かましいかな」
彼の年齢はわからないが、歳上なのはわかっていて、多分父よりは若い。
『つまり、私のことを兄のように慕ってくれていると?』
「い、嫌なら…」
『いいえ、光栄です』
「ほ、本当に?」
『ええ、王女様の兄など、とても畏れ多いことですが』
「そんなことないです」
名前くらいしか知らないが、家族より誰よりベルテは彼と会話(彼は文字だが)してきた。
彼は人見知りなだけで、学もあり物腰も優雅で信頼出来る人間だ。
『では、兄として言いますが、ベルテ様も少し人嫌いを克服された方がいいです。手始めにベルクトフ卿のことをもう少し知る努力をされてはどうでしょう』
「そ、それは……でも、他に好きな人がいるかも知れないのに、仲良くして意味がある?」
『良く相手を知れば、自ずとわかるかと思いますよ。本当にそんな人がいるのに、それを隠してベルテ様と婚約するような人間なのかどうかがね』
「私に…、わかる?」
『物の価値をわかるベルテ様なら、人の本質もきちんと見分けられると思いますよ』
ベルテは半信半疑ながら、ヴァンの言うとおりにすることにした。