その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
「あれって、ベルテ様?」
机にあった木彫りの胸像は、婚約を告げられた日のベルテの姿をしている。
そして瞳に当たる部分には、ベルテの瞳と同じトパーズが嵌め込まれていた。
「魔導具はありましたか? わっ」
ヴァレンタインの魔力が込められた魔導具があるのではと、魔導医師が二人の背後に立って頭越しに中を見て、驚きの声を上げた。
「魔導具…ではなさそうですが…」
医師の言葉を聞いて、はっとベルテは手に持ったメダルを持ち上げる。メダルの明転する光と同じリズムで、胸像が光っている。
一般的に魔導具は宝石などを使う。部屋を見渡すと胸像の瞳に使われた石以外に、宝石は見当たらない。
「え、あれが?」
ベルテは驚き医師を振り返ると、医師が半信半疑ながら頷いた。
「魔力のある物が造った工芸品には、自然と魔力が込められると言います。魂を込めて造ったものだからです。きっとあの像にはヴァレンタイン様の魔力が込められています」
「魂を…込めて」
「ベルテ様、そのメダルを像に当ててみてください」
綺麗に使っているのだろう。床には木屑ひとつ落ちていない。その中をベルテは進み、医師に言われたとおりにメダルを当ててみた。
「きゃっ!」
瞳の部分がカッと光り輝き、眩しさにベルテは目を閉じた。
「な、何が…」
「ヴァレンタイン!」
夫人の声が聞こえて、医師が急いで寝台のほうへ掛けていく足音が、目を瞬かせているベルテの耳に聞こえた。
「ヴァレンタイン様」
医師の声も聞こえて、ベルテは扉の近くに居るシャンティエと共に、慌てて侯爵夫妻や医師のいる場所へ走って行く。
「う…」
ベルテが辿り着くと、呻きながらもぞもぞとヴァレンタインがシーツの下で身動ぎしていた。
「んん」
そして瞼がピクピクと痙攣したかと思うと、長い睫がパタパタと動き、ヴァレンタインがぱちりと目を開けた。
「ヴァレンタイン」
「ヴァレンタイン、気がついたのね」
「お兄様!」
「落ち着いてください。今診察しますから」
三人が彼の顔を覗き込むように覆い被さるのを、医師が止めて三人とヴァレンタインの間に立った。
「ヴァレンタイン様、お気づきになられましたか?」
医師が彼に声をかけ、手を翳して彼の目の前で振ってみせる。そして魔導医師が使う魔力量の計測器で魔力の保有量を確認した。
「どうですか?」
夫人が医師に問いかけ、皆でその答えに固唾を呑む。医師と侯爵夫妻とシャンティから一歩下がって立っていたベルテも、はらはらしながら医師に注目する。
「まだ半分ほどですが、魔力が回復しています。後はゆっくり休めば一日で元の魔力量に戻るでしょう」
部屋中に安堵のため息が聞こえた。
「良かったわ」
「心配させておって」
「良かった。お兄様」
三人が手を取り合って喜び合う。
「ここ、は? 私の…夢か?」
「ヴァル、ここはあなたの部屋よ。覚えている? あなたはヤギルトウツボの種子に寄生されて、魔力を殆ど吸われて意識を失っていたのよ」
「ヤギルト…ウツボ」
「そうよ、お兄様。一時は危なかったのよ」
皆の頭があってベルテからヴァレンタインは見えないが、戸惑っている彼の声が聞こえる。
少し掠れ気味だが、受け答えは出来ている。
「魔力…そうだ」
「どうしたの、お兄様」
「ヴァル?」
「何か気になることでもあるのか? 何を探している」
何かを捜しているらしい。
「夢? ベルテ様がいた気がしたが」
「え?」
「違いますね。私の願望が見せた夢だったみたいです」
ヴァレンタインがため息と共に呟いた。
八つの目が振り返ってベルテを見る。
「お兄様、夢って、ベルテ様のことを夢に見るほど気にしているの?」
なぜか含み笑いをしながらシャンティエがこちらを見ながら、ヴァレンタインに話しかける。
「ずっと夢に見ていた。彼女が私のお見舞いに来てくれて、声をかけて手を握ってくれる…そんなわけないのに。握ってくれたのは母上ですか?」
「えっと。私もそうだけど…」
シャンティエと医師が一歩寝台から離れる。
侯爵も一歩下がり、夫人も椅子から立ち上がった。
そして皆がベルテに寝台のところへ来るように目線で訴える。
「夢、じゃないわよ」
シャンティエがゆっくり近づくベルテの手を掴んで、引き寄せてさっと背後に回って後ろから押した。
「シャ、シャンティエ様」
「え、ベルテ様!? いた!」
「いたい」
押されてよろめいたベルテは、そのままヴァレンタインのほうへ倒れかかった。
そしてベルテを見て驚いて起き上がろうとしたヴァレンタインと、額同士をぶつけてしまいベルテの目に火花が散った。
机にあった木彫りの胸像は、婚約を告げられた日のベルテの姿をしている。
そして瞳に当たる部分には、ベルテの瞳と同じトパーズが嵌め込まれていた。
「魔導具はありましたか? わっ」
ヴァレンタインの魔力が込められた魔導具があるのではと、魔導医師が二人の背後に立って頭越しに中を見て、驚きの声を上げた。
「魔導具…ではなさそうですが…」
医師の言葉を聞いて、はっとベルテは手に持ったメダルを持ち上げる。メダルの明転する光と同じリズムで、胸像が光っている。
一般的に魔導具は宝石などを使う。部屋を見渡すと胸像の瞳に使われた石以外に、宝石は見当たらない。
「え、あれが?」
ベルテは驚き医師を振り返ると、医師が半信半疑ながら頷いた。
「魔力のある物が造った工芸品には、自然と魔力が込められると言います。魂を込めて造ったものだからです。きっとあの像にはヴァレンタイン様の魔力が込められています」
「魂を…込めて」
「ベルテ様、そのメダルを像に当ててみてください」
綺麗に使っているのだろう。床には木屑ひとつ落ちていない。その中をベルテは進み、医師に言われたとおりにメダルを当ててみた。
「きゃっ!」
瞳の部分がカッと光り輝き、眩しさにベルテは目を閉じた。
「な、何が…」
「ヴァレンタイン!」
夫人の声が聞こえて、医師が急いで寝台のほうへ掛けていく足音が、目を瞬かせているベルテの耳に聞こえた。
「ヴァレンタイン様」
医師の声も聞こえて、ベルテは扉の近くに居るシャンティエと共に、慌てて侯爵夫妻や医師のいる場所へ走って行く。
「う…」
ベルテが辿り着くと、呻きながらもぞもぞとヴァレンタインがシーツの下で身動ぎしていた。
「んん」
そして瞼がピクピクと痙攣したかと思うと、長い睫がパタパタと動き、ヴァレンタインがぱちりと目を開けた。
「ヴァレンタイン」
「ヴァレンタイン、気がついたのね」
「お兄様!」
「落ち着いてください。今診察しますから」
三人が彼の顔を覗き込むように覆い被さるのを、医師が止めて三人とヴァレンタインの間に立った。
「ヴァレンタイン様、お気づきになられましたか?」
医師が彼に声をかけ、手を翳して彼の目の前で振ってみせる。そして魔導医師が使う魔力量の計測器で魔力の保有量を確認した。
「どうですか?」
夫人が医師に問いかけ、皆でその答えに固唾を呑む。医師と侯爵夫妻とシャンティから一歩下がって立っていたベルテも、はらはらしながら医師に注目する。
「まだ半分ほどですが、魔力が回復しています。後はゆっくり休めば一日で元の魔力量に戻るでしょう」
部屋中に安堵のため息が聞こえた。
「良かったわ」
「心配させておって」
「良かった。お兄様」
三人が手を取り合って喜び合う。
「ここ、は? 私の…夢か?」
「ヴァル、ここはあなたの部屋よ。覚えている? あなたはヤギルトウツボの種子に寄生されて、魔力を殆ど吸われて意識を失っていたのよ」
「ヤギルト…ウツボ」
「そうよ、お兄様。一時は危なかったのよ」
皆の頭があってベルテからヴァレンタインは見えないが、戸惑っている彼の声が聞こえる。
少し掠れ気味だが、受け答えは出来ている。
「魔力…そうだ」
「どうしたの、お兄様」
「ヴァル?」
「何か気になることでもあるのか? 何を探している」
何かを捜しているらしい。
「夢? ベルテ様がいた気がしたが」
「え?」
「違いますね。私の願望が見せた夢だったみたいです」
ヴァレンタインがため息と共に呟いた。
八つの目が振り返ってベルテを見る。
「お兄様、夢って、ベルテ様のことを夢に見るほど気にしているの?」
なぜか含み笑いをしながらシャンティエがこちらを見ながら、ヴァレンタインに話しかける。
「ずっと夢に見ていた。彼女が私のお見舞いに来てくれて、声をかけて手を握ってくれる…そんなわけないのに。握ってくれたのは母上ですか?」
「えっと。私もそうだけど…」
シャンティエと医師が一歩寝台から離れる。
侯爵も一歩下がり、夫人も椅子から立ち上がった。
そして皆がベルテに寝台のところへ来るように目線で訴える。
「夢、じゃないわよ」
シャンティエがゆっくり近づくベルテの手を掴んで、引き寄せてさっと背後に回って後ろから押した。
「シャ、シャンティエ様」
「え、ベルテ様!? いた!」
「いたい」
押されてよろめいたベルテは、そのままヴァレンタインのほうへ倒れかかった。
そしてベルテを見て驚いて起き上がろうとしたヴァレンタインと、額同士をぶつけてしまいベルテの目に火花が散った。