その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
それから三日が経った。
ベルテはあれきり彼には会っていない。翌日には起き上がれるようになったとシャンティエからは聞いている。
「アレッサンドロ様のことを聞きました」
学園長に部屋に呼ばれて、ベルテは彼の部屋を訪れていた。
「嘆かわしいことです」
アレッサンドロは監禁先から抜け出し、私に復讐しようとしたことがばれ、離宮での幽閉どころか辺境の警備兵として送られることになった。
王妃はショックで心臓発作を起こし、療養中だ。
そしてカトリーヌは、孤島の監獄のような修道院に送られることになった。
修道院も辺境の警備兵も、犯罪者が更生するために送られるところだ。
これで二人は犯罪者の烙印を押されたことになる。
「学園長はあの木彫りの作者がヴァレンタイン様だと知って、私にくださったのですか?」
「なんだ。もうばれたのか」
学園長つまらなさそうに言った。
「あれが誰の作品でも、ベルテ様が気に入っていたから祝に差し上げたまでです」
本当だろうかと、疑いの目で彼を見る。
「実際出来が良いから気に入っておった」
確かにその点に反論はない。
「『白薔薇』だなんだと騒がれておるが、学園にいる時から彼はいつも誰かに取り囲まれていて、息苦しそうだった。その彼の息抜きが木彫りだった」
「そうなのですね」
彼だって一人になりたいこともあるだろう。見かけばかり気にして、自分も彼を型に嵌めて見ていた。
実際の彼は、この木彫りのように素朴な人なのだろうに。
「彼との婚約、私はお似合いだと思っています。心からね」
「ありがとうございます」
派手な雰囲気のヴァレンタインは苦手だが、今の彼なら好感が持てる。
「それはそうと、今日は久しぶりにヴァンが来ているぞ」
「え、本当ですか?」
「ああ、会いに行くといい」
学園長に言われ、ベルテは学園の裏庭に向かった。
「ヴァンさん」
約一ヶ月ぶりに会うヴァンは、いつものようにブカブカのオーバーオールを着て、目深に帽子を被り、スカーフで顔の下半分を覆っていた。
『ベルテ様、お久しぶりです、お元気ですか?』
「ヴァンさんこそ、元気だった?」
『はい、お陰様で』
彼は作業の手を止め、ベンチに座るベルテの横に腰掛けた。
「ヴァンさん私ね。反省しているの」
『反省?』
「そう。人を見かけとか評判とかで判断して、勝手にこんな人だって決めつけていたの」
『そんな人は多いと思いますよ』
「そうだね。でも、違ったら違ったで。そんな人だと思わなかったとか、責めたり落胆したり勝手よね」
『早く気づけたなら、いいことです』
「そう思う?」
『はい』
「それでね。ヴァンさん、聞きたいことがあるんだけど」
『なんですか?』
「ヴァンさんは、好きな人がいるのに、他の人と婚約したりできる?」
ピタリと彼の指が止まった。
「ヴァンさん?」
『誰か…他に好きな人がいるのですか?』
「え?」
そう聞かれて、誤解されていることに気づく。
「ち、違うわ。その逆、えっと私が本命じゃないほうだもの」
『本命じゃない?』
「そう。そう思ってたんだけど…わからなくなっちゃった」
『……どういうことですか?』
「う〜ん、最初は取り引きっぽかったんだけど、意外に親切だし、気を遣ってくれるし、いい人はいい人なの。でも、好きな人がいるって噂があって、それって、あの優しさは何だったのかなとか、考えてしまうの」
『単純に、ベルテ様に好意があるということでは?』
「え、そ、そんな、そんなこと…」
確かにそんなようなことを言っていたし、両親がいるからそう言ったとか?
「それで、この前私が好きだと言っていた作品の作者が、彼だったとわかったの。しかも私の胸像を造ってて、魔力をいっぱい籠めてて…しかもキ、キスとか…」
『それは確実に、ベルテ様のことが好きなのだと思います』
「え、うそ!」
『どうして嘘だと思うのですか?』
「だって、彼に好かれる要素がないもの」
『ベルテ様は、自分を卑下しすぎです』
彼にも同じことを言われたなと、ベルテは思った。
(えっとなんだっけ)
彼に言われた言葉を思い出す。
『ベルテ様にはたくさんいいところがあります。王女様なのに気取ったところがなく、親しみやすい』
「それは、威厳がないだけでしょ」
『才能があってひたむきで、他人に媚を売ることなく自分自身を持っている。少し卑屈な所と頑固な所がありますが、私には十分魅力的な女性です』
(そうそう。そんな風に…)
「え?」
目を丸くして、ベルテは固まった。
ヴァレンタインとまったく同じセリフなことに、ベルテは驚いた。
「あの、ヴァンさん、もしかして…」
彼はヴァレンタインと繋がっているんだろうか。
『どうしました?』
固まったままのベルテにヴァンが尋ねた。
「えっと、まったく同じことを他の人の口から聞いたことがあって…」
『他の人の口?』
「そう」
「それは、この口ですか?」
「そう……え?」
気の所為だろうか。今、ヴァレンタインの声が聞こえた気がして、キョロキョロ辺り見渡した。
(まずいわ。幻聴?)
ここにいないはずの人の声が聞こえて、おかしくなったのかと思った。
呆然としていると、目の前のヴァンが目深に被っていた帽子を取り払い、スカーフを下ろした。
「!!!!」
目の前に現れたのはヴァレンタインだった。
ベルテはあれきり彼には会っていない。翌日には起き上がれるようになったとシャンティエからは聞いている。
「アレッサンドロ様のことを聞きました」
学園長に部屋に呼ばれて、ベルテは彼の部屋を訪れていた。
「嘆かわしいことです」
アレッサンドロは監禁先から抜け出し、私に復讐しようとしたことがばれ、離宮での幽閉どころか辺境の警備兵として送られることになった。
王妃はショックで心臓発作を起こし、療養中だ。
そしてカトリーヌは、孤島の監獄のような修道院に送られることになった。
修道院も辺境の警備兵も、犯罪者が更生するために送られるところだ。
これで二人は犯罪者の烙印を押されたことになる。
「学園長はあの木彫りの作者がヴァレンタイン様だと知って、私にくださったのですか?」
「なんだ。もうばれたのか」
学園長つまらなさそうに言った。
「あれが誰の作品でも、ベルテ様が気に入っていたから祝に差し上げたまでです」
本当だろうかと、疑いの目で彼を見る。
「実際出来が良いから気に入っておった」
確かにその点に反論はない。
「『白薔薇』だなんだと騒がれておるが、学園にいる時から彼はいつも誰かに取り囲まれていて、息苦しそうだった。その彼の息抜きが木彫りだった」
「そうなのですね」
彼だって一人になりたいこともあるだろう。見かけばかり気にして、自分も彼を型に嵌めて見ていた。
実際の彼は、この木彫りのように素朴な人なのだろうに。
「彼との婚約、私はお似合いだと思っています。心からね」
「ありがとうございます」
派手な雰囲気のヴァレンタインは苦手だが、今の彼なら好感が持てる。
「それはそうと、今日は久しぶりにヴァンが来ているぞ」
「え、本当ですか?」
「ああ、会いに行くといい」
学園長に言われ、ベルテは学園の裏庭に向かった。
「ヴァンさん」
約一ヶ月ぶりに会うヴァンは、いつものようにブカブカのオーバーオールを着て、目深に帽子を被り、スカーフで顔の下半分を覆っていた。
『ベルテ様、お久しぶりです、お元気ですか?』
「ヴァンさんこそ、元気だった?」
『はい、お陰様で』
彼は作業の手を止め、ベンチに座るベルテの横に腰掛けた。
「ヴァンさん私ね。反省しているの」
『反省?』
「そう。人を見かけとか評判とかで判断して、勝手にこんな人だって決めつけていたの」
『そんな人は多いと思いますよ』
「そうだね。でも、違ったら違ったで。そんな人だと思わなかったとか、責めたり落胆したり勝手よね」
『早く気づけたなら、いいことです』
「そう思う?」
『はい』
「それでね。ヴァンさん、聞きたいことがあるんだけど」
『なんですか?』
「ヴァンさんは、好きな人がいるのに、他の人と婚約したりできる?」
ピタリと彼の指が止まった。
「ヴァンさん?」
『誰か…他に好きな人がいるのですか?』
「え?」
そう聞かれて、誤解されていることに気づく。
「ち、違うわ。その逆、えっと私が本命じゃないほうだもの」
『本命じゃない?』
「そう。そう思ってたんだけど…わからなくなっちゃった」
『……どういうことですか?』
「う〜ん、最初は取り引きっぽかったんだけど、意外に親切だし、気を遣ってくれるし、いい人はいい人なの。でも、好きな人がいるって噂があって、それって、あの優しさは何だったのかなとか、考えてしまうの」
『単純に、ベルテ様に好意があるということでは?』
「え、そ、そんな、そんなこと…」
確かにそんなようなことを言っていたし、両親がいるからそう言ったとか?
「それで、この前私が好きだと言っていた作品の作者が、彼だったとわかったの。しかも私の胸像を造ってて、魔力をいっぱい籠めてて…しかもキ、キスとか…」
『それは確実に、ベルテ様のことが好きなのだと思います』
「え、うそ!」
『どうして嘘だと思うのですか?』
「だって、彼に好かれる要素がないもの」
『ベルテ様は、自分を卑下しすぎです』
彼にも同じことを言われたなと、ベルテは思った。
(えっとなんだっけ)
彼に言われた言葉を思い出す。
『ベルテ様にはたくさんいいところがあります。王女様なのに気取ったところがなく、親しみやすい』
「それは、威厳がないだけでしょ」
『才能があってひたむきで、他人に媚を売ることなく自分自身を持っている。少し卑屈な所と頑固な所がありますが、私には十分魅力的な女性です』
(そうそう。そんな風に…)
「え?」
目を丸くして、ベルテは固まった。
ヴァレンタインとまったく同じセリフなことに、ベルテは驚いた。
「あの、ヴァンさん、もしかして…」
彼はヴァレンタインと繋がっているんだろうか。
『どうしました?』
固まったままのベルテにヴァンが尋ねた。
「えっと、まったく同じことを他の人の口から聞いたことがあって…」
『他の人の口?』
「そう」
「それは、この口ですか?」
「そう……え?」
気の所為だろうか。今、ヴァレンタインの声が聞こえた気がして、キョロキョロ辺り見渡した。
(まずいわ。幻聴?)
ここにいないはずの人の声が聞こえて、おかしくなったのかと思った。
呆然としていると、目の前のヴァンが目深に被っていた帽子を取り払い、スカーフを下ろした。
「!!!!」
目の前に現れたのはヴァレンタインだった。