香らない恋もある。

5.罰ゲーム

 その日の放課後は、わたしが委員会の仕事があるので蓮には先に帰ってもらうことにした。
 寂しいけど、明日も会えるからいいか。
 鼻歌混じりに階段を駆けおり、昇降口へと急ぐ。

 もしかしたら蓮は、「じゃあ先に帰る」っていっておきながらも、待っていてくれるかもしれない。
 そう考えて、ニヤニヤしながら廊下を歩いていてふと思い出す。

「あ、そういえばカバン、教室に置きっぱなしだった」

 カバンを置いて帰る、という大失敗をするところだった。

 香りのことを気にしないようにしていたら、蓮はレアかも、香りがしないタイプかも。
 そんなことを思うようになれたので、恋人気分を満喫できている。
 だけど、あまりにも舞い上がり過ぎないようにしないとな。

 一年一組の教室のドアを開けようとしたその瞬間。

「夏目、お前、恋野(こいの)と付き合ってるんだって?」

 自分の苗字が中から聞こえて、思わずドアに伸びる手がぴたりと止まる。

「ああ、うん。付き合ってるよ」

 蓮の声も聞こえてくる。

 男子の友人同士でわたしのうわさ?
 やだー、蓮の惚気をこんなところで聞くことになっちゃうのかな。
 わたしが耳を澄ましていると、別の男子が笑いながらいう。

「でもさ、マジで罰ゲームするとは思わなかったなあ」

「本当だな。おれ、冗談でいったんだけどなあ」

 男子二人の会話に、さっきまで頭の中にあったお花畑が消える。
 罰ゲームって、どういうこと?

「おれだったら絶対無理。負けてもそんな罰ゲームしないな」

「だな。告白するなんていう罰ゲーム、もはや罰ゲームどころか地獄だ」

 男子二人が笑う声が、やけに遠く感じる。

 告白、罰ゲーム、という二文字が頭のなかでくるくると回っていた。
 罰ゲームでわたしに告白したなんて、うそだよね?

「まあ、それで萌香からOKもらえたんだし、罰ゲームは成功したんだよ」

 蓮の声だった。
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