香らない恋もある。
「もしもし」

『あ、もしもし? 萌香大丈夫なのか? 一週間も連絡取れないし、学校来ないし、お見舞いも拒否されるから、相当悪いんだなと思って』

「本当は心配なんかしてないくせに」

『なんでそうなるんだよ』

「罰ゲームで告白したって知ってるんだから!」

『は? あ、あれのことか! ちょっと待って今そっち行く』

 蓮のその言葉を聞いた途端、電話を切り、上着を羽織って家を飛び出す。

 辺りは夜の闇に支配され、空気が氷のように冷たい。
 それでも、わたしは蓮と鉢合わせないように裏道を走る。

 どこへ行くかなんて決めてない。
 ただ、蓮と会いたくないだけ。
 ハッキリさせようと思ったくせに、いざ真実を聞けるとなったら逃げだすなんて情けない。
 

 家からしばらく走ったところで、温かさを求めてコンビニに避難――できなかった。
 なぜなら、財布もおまけにスマホも持っていなかったのだ。

「バカだなー」

 そう嘆いて、もう家に帰ろうかとも思ったけどすぐに戻ると蓮に見つかりそうで嫌だ。

 どこか落ち着ける場所はないかと辺りを見回し、迷わずその場所へ入った。
 そこは通称タコ公園。
 小三の時、蓮がこのタコの滑り台の真ん中にあるトンネルに家出をしていたっけ。

 わたしも真似して、中へ入ってみる。
 入ってしゃがみこんだら、余計に虚しくなってしまった。

 こんなところにいたら、嫌でも蓮を思い出してしまうから。
 お弁当に喜んでくれたことも、寄り道したことも、好きだっていってくれたこと。
 全部、うそだなんて思いたくないのに!
< 14 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop