香らない恋もある。

2.ふたりの時間

 次の日のお昼休みは、わたしと蓮は中庭にいた。

「おお! 美味そう!」

 蓮はお弁当箱のふたを開けて、歓喜の声を上げる。
 なるべく茶色に偏らないように、彩りよくしたお弁当は、五時起きで作った。

「構想十年、制作時間は二年の力作だよ」

「おお! それ全米が泣く! ってゆーかそれ腐ってんじゃん!」

「腐らないよ。愛は腐らない」

 そういった瞬間、自分がとんでもなくくさい台詞を吐いてしまったことに気づく。

 ちらりと蓮のほうを見ると、彼も顔が真っ赤でお弁当に入れたプチトマトと張り合えそう。
 蓮が黙りこんでしまったので、わたしも何もいえなくなった。

 どうしよう……。『愛』とか重いよね。
 でも、冗談だって蓮もわかってるはずなのに、なんでこんなに空気が重いのよ。

 心の中でパニックになっていると、蓮がガバッと顔をあげそれから親指をビッと立ててわたしにいう。

「萌香の愛は受け取った!」

 そこまでいうと、自分の言葉に恥ずかしくなったのか、蓮はますます顔を赤くさせ、「わあああああ!」と叫んでからペットボトルのお茶を一気に飲み干した。

 そして、盛大にごほごほとむせ始める。
 わたしも紅茶の入ったペットボトルに口をつけて勢いよく飲んだ。

「いただきまーす」という声が聞こえたかと思うと、蓮はお弁当を食べ始めていた。

 蓮は卵焼きを食べては、「美味い、なにこれ」と驚き、ミニハンバーグを食べて、「天才じゃん」と目を輝かせ、から揚げを食べて、「すっげー美味い!」と笑う。
 から揚げは、冷凍食品だけど黙っておこう。

 中学入学から十カ月。
 こんなに幸せなお昼は初めてだ。

 それなのに、心から喜べないのは蓮から恋の香りが一切しないことだった。
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