全治三ヵ月
「承知しました。仕事の内容に関してはこちらにお任せいただけますでしょうか?」

「え?!あ、はい!」

突然の承諾に驚きながらも目を見開き答える。

「では、お店のことが落ち着かれましたら、私の携帯にお電話下さい」

名刺にもう一度目をやり、携帯番号を確認する。

「ありがとうございます!でも、本当に大丈夫でしょうか?」

「なんとかなると思います。奥様のご要望にできる限りお答えしたいので」

島崎さんは優しく微笑み頷いた。

「二,三日後には連絡できるかと思います。よろしくお願いします!」

ドキドキしていた。

いや、ワクワクと言った方がいいかもしれない。

私にとって、お店以外で働くのは人生初めての経験だ。

自分の知らない世界がそこに広がっているのかと想像するだけで、胸が高鳴る。

「申し訳ありませんが、念のため、こちらの用紙に、奥様のお名前とご連絡先をご記入いただけますか?」

「はい」

用紙を手渡された時、そんな不謹慎な気持ちを一瞬でも持ってしまったことが気づかれてやしないか心配になる。

だって、悠が大けがで入院しているのに、加害者である会社で働かせてもらえることに心がときめいただなんて。

『御崎 智』と自分の名前を書いた後、チラッと島崎さんを盗み見ると、穏やかな笑みを浮かべて私が書き終えるのを待っていてくれていた。大丈夫、気づいてないよね。

ワクワクする気持ちをぐっと抑え、神妙な表情を敢えて作り、自分の連絡先を書いた。

書き終えた私は島崎さんに用紙を渡す。

内容を確認した彼は、一瞬「ん?」という顔をしたけれど、すぐに笑顔で「確かに頂戴しました」と言った。

そして、「ご連絡お待ちしています。本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございました」と深く頭を下げ、急ぎ足で道路の脇に停めてあったセダンに乗り去っていった。

きっと忙しい中わざわざ店にまでお詫びに来てくれたんだろう。

状況が状況だけにしょうがないとは言え、お偉いさんも大変だな。

軽く息を吐き、店に続く階段を駆け上がった。
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