全治三ヵ月


クローゼットの奥の方に潜んでいたベージュのパンツスーツを引っ張り出し、ヒールの靴を磨いて、フルメイクをする。

肩までの髪はいつもは後ろに一つに束ねるけれど、今日は下ろしてみた。

都心のオフィス街。

朝日を浴びてキラキラしているビル群と人々の間をぬって「ジャパン物流」と書かれたビルの前に立つ。

一通り店の仕事が片付いたので島崎さんに電話を入れたら、すぐにでも来て下さいと言われた。

ビルの中に入ると受付フロアは二階となっている。

エレベーターは全部で五機もあって、とりあえず、一番端っこの扉前で待っていると、隣のエレベーターが開いたので慌てて飛び乗った。

朝のエレベーターは、出勤するサラリーマンで箱詰め状態。

混んだエレベーターに乗る経験も初めてで、ただそれだけでこの会社の一員になったような気持ちになり年甲斐もなく浮足立つ。

二階の受付ホールは広く、奥にはパーテーションで区切られた商談室がいくつもあって、その手前にも丸テーブルと椅子が五セット置かれている。

受付で自分の名前を伝えると、奥のパーテーションの方に案内された。

ほどなくして島崎さんがやってくる。

淡い水色のシャツが爽やかで、彼にとてもよく似合っていた。

「お待たせしました」

「いえ」

あまりに島崎さんが眩しくて、すぐに目を伏せてしまう。

「その後、ご主人はいかがですか?」

「はい、手術も成功しましたし、あとはリハビリをがんばってもらうのみです」

「そうですか。リハビリが大変なんですよね。一日も早く元に戻られるよう応援しています」

そんなことを言う島崎さんが、実は毎日病院に悠の様子を伺いに来てくれていることを看護師さんから聞いていた。

「それで、御崎さんにお願いしたいお仕事というのが……」

島崎さんは手にしていたクリアファイルから書類を数枚取り出し、私の前に置く。
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