全治三ヵ月

５

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悠の足は順調に回復していった。

でも、これから先の私たちのことは、まだ切り出せずにいる。

結婚を背負う勇気が正直なかった。

もちろん、悠も結婚なんてまだ考えてない可能性もある。もしそうだったら、二人の選択は結婚以外にはあともう一つしかない。

勝手かもしれないけれど、そのもう一つの選択を選ぶ勇気もなかった。

二カ月半がたった頃、久しぶりに店の様子を二人で見に行く。

しばらく使っていなかった調理場は、たった二カ月半ほどなのにとても寂れていて、悠はそれにショックを受けているようだった。

「早く店開けなくちゃな」

「そうだね」

今の仕事が馴染みすぎて、またあの店の喧騒に戻れるんだろうか。

「智、今働かせてもらってる仕事、楽しい？」

それは突然だった。

「え？」

思わず、目を見開いて悠の方に顔を向けると、悠は作業台で敢えて気にしてないような素振りで帳簿をめくっている。

「店の仕事とは全然違うって言ってただろ？事務職とかなんとか」

「あ、うん。楽しく働かせてもらってる」

「俺は会社勤めとか全く経験したことないからさ。でも、絶対事務職なんて俺にはできないと思う」

うん、確かに。悠がスーツ着て、デスクに座ってノートパソコン打ってる姿なんて想像もできなくて思わずくすりと笑ってしまう。

「何がおかしいんだよ」

「いや、ほんと悠がサラリーマンなんて想像できないなと思って」

「ま、いいけど」

悠はようやくこちらを見て目を細めた。

「智はすごいよ。ちゃんとサラリーマンも勤められてさ。俺のカバーもして。叶わないな」

「何よ、突然」

静かな店内に、掛け時計の時を刻む音が遠慮がちに響いている。

「店に戻りたい？」

「どうして？」

何が言いたいんだろう。

「もし、智が今のサラリーマンの仕事の方が楽しいなら、俺は……」

その時、バッグに入れていた私のスマホが震えた。

見ると、母からだ。

咄嗟に浮かんだ私の大好きな顔。