先輩が卒業するまでに(短編)
『あ…』
私がカバンを受け取ると
その人は校舎に向かって歩き出した。
私はただあたふたして
その背中に精一杯声を発した。
『あ…の、ありがとうございました!』
その人は振り返ることはなく、
ただ右手をそっと挙げて振った。
誰なんだろう…
さっきの人。
なんていう人なんだろう…
たぶん制服の着方とかからして一年生ではない。
先輩だと思う。
すごく格好よくて
「はい。」しか声を聞いてないのに、
低くて格好いい声だった。
いつも遅刻してるのかな?
余裕な足取りで歩いていったその人が
この高校で1番かっこいいと言われている
江口たける先輩、という人だということを知るのに
時間はかからなかった。