非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

重ならない心

 一毬はマンションのエレベーターを飛び出ると、絨毯の敷かれたフロアを小走りで通り過ぎた。

 急いで部屋の前に向かい、一旦息を整えてからそうっと扉を開く。

 そして目の前に飛び込んできた、きちんと揃えられた黒い革靴を見て、一瞬天井を仰いだ。


「やっぱり帰ってるよね……」

 一毬は音を立てないように鍵を閉めると、そっとパンプスを横に並べて置く。

 部屋の奥からは何も物音が聞こえない。

 もしかしたら湊斗は、もう寝てしまったのだろうか。


 そろそろと廊下を歩き、リビングの扉を開けようと手をかける。

 その途端、扉が押し開かれ、怖い顔をした湊斗に見下ろされた。

 湊斗は帰ったばかりだったのか、白いワイシャツにネイビーのパンツスタイルのままだった。

 そっと奥を覗くと、ジャケットやネクタイは無造作に、ダイニングチェアにかけられている。


「た、ただいま……です」

 一毬は瞬間的に何と言い訳をしようか考えながら、たどたどしく声を出す。
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